>>自治体職場からの告発レポート
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[UpDate:2006/5/13] |
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[国民健康保険]
高負担の保険料や“制裁措置”は
医療を受ける「安心」を奪う
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● 増え続ける国保加入者数
〜低所得加入者と高齢者比率〜
国民健康保険は、職場の健康保険の加入者や生活保護受給者以外のお店などを経営している人、農漁業を営んでいる人、退職して職場の健康保険をやめた人、アルバイトなどで職場の健康保険に加入していない人(家族の扶養者になっている人は除く)などが加入する命と健康を守る制度で、国民として医療を受ける権利を実現する制度として世界に誇る国民皆保険制度です。
国保世帯の加入数は年々増加しています。それは、高齢者退職者が退職に伴ってそれまでの健康保険から国保に移動していること、リストラや倒産などによる失業者、またパートやアルバイトなどの非正規労働者の国保加入が増えているからです。
そのうえ、窓口負担が3割で統一されたこともあって、正規職員であっても国保という健康保険のない職場も増えています。
● 高い保険料、「払いたくても払えない」
どの市町村でも国保保険料は毎年上がり続けています。
O市の場合、所得割の料率が94年には市府民税の2.6倍だったものが、05年年には6.58倍(介護分を含む)となるなど、年収300万円の単身世帯の場合、最高限度額の年額61万円も算定されるなど「払いたくても払えない」低所得者にとって、高負担の保険料となっています。
● 保険料を滞納せざるを得ない市民の切迫した声
時には語気強く、あるいは遠慮がちに窓口に来られる相談は、いずれも切迫したものです。
- 40代の夫が突然のリストラにあい、夫婦、子ども2人で妻の実家に。親の年金で6人が暮らすことになった。とても国保料など払えない。
- 離婚した娘が子ども2人を置いて失踪。生活保護を受給している祖母が面倒している。生活保護ワーカーからは「前夫に扶養してもらうよう」いわれたが、離婚時に養育しない約束で別離したため、無理。子どもが病気で病院に連れて行きたいが、保護課で断られたと国保窓口に来庁。住民票はまだ移動しておらず、保険料の支払いも困難。とりあえず1ヶ月の証明書を渡す。
- 人通りもまばらな商店街に洋品店を営む4人世帯。店がうまくいかない、問屋への支払いが苦しい、「個人再生手続き」で月13万円の支払いがあるなどの理由で10回.37000円訪問集金で2万円の内入をしているが、途中で止まっている。
- 母子家庭で、世話していた親がなくなり、病院代や葬式代を支払ったら蓄えが全くなくなった。治療代も会社から借りている。国保料の減免、分割してほしい。
● 滞納者から保険証を取り上げ、「短期証明書」「資格証明書」を発行
国保では、少なくなる個人収入に反比例して毎年上がり続ける保険料のために、保険料を納められない人や滞納する人が増え続けています。
(表1・2)
政府は、2000年4月から保険料を滞納した世帯に対して、「保険証の返還をもとめ、資格証明書を発行する」という改悪を行いました。資格証明書で医療を受ける場合は、いったん治療費の全額を払わなければなりません。
また、資格証明書では特定療養費の給付を受けられないため、大学病院等での高度医療を受けられません。加えて、短期保険証の世帯については、保険証の期限が切れていて、病気になっても医者にかかれないという死活問題となっています。
保険料の滞納世帯の増加は、保険料があまりにも高くなったことに原因があるにもかかわらず、このような制裁措置を続けていくことは「保険料を払わない者には、医療を受ける資格はない」という皆保険制度自体を否定するものです。
● 納得できる納付方法に「相談」できる機能と体制を
窓口には「なぜ、こんなに保険料が高いのか?」といった苦情や問い合わせ、「もう払えない」という悲鳴に近い相談があります。政府が滞納する世帯に「資格証明書」を発行するというのは制裁、いやがらせ以外のなにものでもなく、恫喝、力づくで納付させるものでしかありません。
「国民皆保険制度」は、「安心して医療が受けられる」制度です。「安心」とは、医師及びその医療技術に信頼がおけるとともに、病気や怪我が直り復帰できること、もう一つの「安心」は、「高い」医療費の負担の心配がない、あるいは少ないと言うことです。戦後の国民的運動によって充実させてきた「国民皆保険制度」は、窓口での医療費負担の「不安」を軽減し、医療を受ける「安心」をつむぎだす制度でした。
各自治体の第一線で働く国保担当職員は、窓口や訪問先で、被保険者の「生活相談」にのりながら、減免や分割納付などの制度を活用することによって、納得して納付してもらえるようにしたり、できるだけ「資格証明書」を発行しないよう工夫するなど、国保を維持継続させるために努力を続けています。 |
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年金・医療・介護の保険料の未納・収納強化をはかる「クレジットカード利用」 |
今国会に、厚生労働省の社会保険庁を廃止し、新に公的年金の運営を引き継ぐ「ねんきん事業機構」の設置、国民年金事業等の運営改善を盛り込んだ社会保険庁改革関連法案が上程されています。
このなかで、国民年金保険料の収納対策の強化として「クレジットカードによる保険料納付」が打ち出され、医療・年金・介護等の社会保険制度内連携による保険料納付の促進策として「国保短期証交付対象者が市町村窓口で国民年金保険料を納付できるように市町村を納付受託機関として指定する」としています。
年金保険料の収納促進を、市町村が行う国民健康保険の短期被保険者証を使ってすすめようとするのは、問題のすりかえです。
年金保険料における「クレジットカードの利用」については、現在国民健康保険や介護保険でも検討され、保険医療機関の窓口負担ですでに一部で導入が始まっています。「クレジットカードの利用」は、クレジット・サラリーマン金融による生活苦・自己破産に陥る危険性をもつものです。
「公的な権力行使」「公的処分」に関わる分野として残されてきた社会保険料や税金の徴収分野までもが「クレジットカード利用」により民間に開放されようとしています。
今回、政府が打ち出した「社会保険制度内連携」は、年金・医療・介護のいずれかでも保険料の未納があれば、すべての社会保険制度の枠から除外するというもので、国民の社会保障サービスを受けるという権利を奪うものです。 |
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大阪市は昨年の6月から、「徴収嘱託員制度」を導入しました。この制度は、区役所「配置」の保険員(保険料の徴収から納付相談まで行う正規の専門職員)業務を徴収嘱託職員業務へ置き換えることを目的としたもので、訪問徴収だけでなく、訪問先での減免や納付についての市民相談など、「キメ細やかな徴収」に務めてきた保険員業務を縮小させています。そして、区役所の徴収機能は弱体化しています。
徴収嘱託職員は現在、各区役所に4名以上配置されています。労働条件は、週5日勤務を基本に、月120時間労働(平日、休日を問わず7:00〜22:00までの時間内で各自が自由に設定)、基本給9万円プラス歩合給という大変不安定な雇用形態になっています。勤務形態は、区役所に自席は無く、自宅から直接、徴収先の市民宅に訪問し、徴収後はそのまま自宅に帰ってくるという「直行直帰」で働いています。そして、徴収嘱託職員と区役所との連絡調整については、支給された携帯電話により行われています。
この徴収嘱託員制度については数々の問題点が生じています。
第一の問題は、自主納付制度否定の内容となっていることです。この制度の基本は市民に納付書を送付せずに、口座振替か集金による徴収を原則としています。この原則から、今まで納付書にて送付されていた督促状については、納入機能のない単なるハガキへと変更されてしまいました。そして、督促状発送後、国保制度についての専門的研修も充分受けないままの徴収嘱託職員が、突然、市民の自宅へ徴収に回る「未納、即徴収訪問」といった市民との信頼関係を保てないものになっています。
第二は、徴収台帳などの個人情報が庁舎を離れ、徴収嘱託職員の自宅で自主管理されるという、徴収嘱託職員まかせの取扱となっていることです。大阪市の個人情報保護条例の視点から考えても、「違反」が懸念される非常に危険な制度となっています。
第三は、賃金の安さから、採用されても1〜2ヶ月で退職する方も少なくなく、ほとんどの区役所で徴収嘱託職員の欠員が生じていることです。
この徴収嘱託職員制度開始後、多くの市民からの苦情と問い合わせが区役所によせられています。代表的なものとしては、新規加入の場合、口座振替を希望しなければ、加入後半年間の納付方法は、徴収嘱託職員による集金が原則となっています。しかし、集金件数が多いため、全ての集金対象世帯への訪問は完全ではありません。その結果として、訪問徴収ができなかった世帯に対して、いきなり督促状が送付されるという、いいかげんで不誠実な状態が起こっています。また、徴収嘱託職員が区役所へ登庁する時は、徴収金の納入時だけであり、市民から徴収嘱託職員への問い合わせや、訪問約束についての連絡があっても、携帯電話への連絡となることから、連絡が取れないケースもたびたび起こっています。
現状では、徴収嘱託職員の業務に対して、行政側からの責任あるチェツク機能がほとんど働かない状態のまま、制度が運営されています。徴収嘱託職員制度は、自治体行政として市民に責任を持てる制度にはなっていません。 |
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(表1)都道府県別 資格証明書の発行状況
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(表2)市町村別 国民健康保険滞納世帯数等の状況
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*滞納世帯・資格証明書・短期証交付状況は、国予算関係資料による(2005.6.1現在)
収納率は、2004年度国実施状況報告による(2005.5.31現在) |