>>自治体職場からの告発レポート

[UpDate:2006/5/13]

[保育]
   施設もボロボロ、公的保育もくずされ、
   「安全」が守れない

● 剥がれる外壁、窓にガムテープ 子どもの安全が守れない

公立保育所施設は、財政難を理由にほとんど修繕・改築がされず、老朽化が進んでいます。2004年度に公立保育所国庫負担金の一般財源化に引き続き、2006年度には公立保育所施設改善費も一般財源化されることになりました。自治体は国庫負担金に相当する金額を地方交付税として国から受け取ることになるのですが、一般財源化されることにより、そのお金を「必ず保育に使わなければならない」とする法律上の義務がなくなります。その結果、保育に使う予算が大幅に削られ、公立保育所の施設を改善することもますます難しくなっています。

多くの公立保育所では施設・設備に大きな問題を抱えています。「床が傾いて平衡感覚が保てない」「外壁がはがれてきている。また次はいつはがれるか心配・・。保育中にはがれるような事があれば危険」「ひび割れした窓をガムテープで貼って応急処置をして使っている、窓は開けられない状況」「寝ている子の上ではなかったけど、天井の扇風機が落ちてきた」等、放置されています(写真参照)。子どもの健やかな発達を保障するはずの保育所ですが安全すら守られていません。子ども達の発達・権利を守るため早急な施設改善が必要です。

ある自治体の保育所施設
 
窓ガラスが修理できず、ヒビをテープを貼ってしのぐ 途中までしか開かない(閉まらない)扉

●保護者に説明なく、一方的に民営化 登園拒否になる子も

公立保育所の民営化・民間委託も加速しています。大阪府下では1994年から計画も含めて84ヵ所の民営化・民間委託・統廃合が行なわれています(表参照)。

民営化・民間委託は財政難・待機児解消や多様なニーズに応えることを口実に進められています。また、市の方針の提案は、多くのところで一方的に突然発表され、保護者や職員に対して詳しい説明もない中で民営化・民間委託が進められています。このような状況の中、入所権を争い、大東市、枚方市、高石市で裁判が闘われています。

民営化・民間委託にあたり、「これまで保護者・職員で作ってきた保育内容」や「今まで制度化されていた障害児保育」「看護師の設置」「自園給食やアレルギー食の対応」など、今まで保障されてきた事が継承されるのかどうか」と不安を抱えて受け入れなければいけない状況となっています。実際に4月から急に保育士全員が変わり、登園拒否を起こしてしまう子ども達もいます。

保育所は何年かで入れ替わるのだから、その時に在園している親子に我慢してもらったらいいと言う論調で進められています。しかし子ども達にとっては、理由もわからないまま急に保育士全員が替わり、保育内容も変わってしまう問題と同時に、発達保障の点からもこれでは安心して保育を受ける権利が奪われています。

最近では、通常保育は民間保育所で、特別保育や障害児保育は公立保育所でという公私の分担論を理由に、民営化・民間委託をすすめる傾向が強くなってきました。

これまでも民間保育園と公立保育所でそれぞれの役割を果たしながら保育制度の拡充を進め保育水準を高めて来ました。今後は市町村がすべての子ども達の発達や成長を保障するために、公立保育所を中心に民間保育所とともに市町村全体の子ども達を視野に入れての保育・子育て支援の拡充をさらに進めていくことが求められています。

● 保育に営利企業が参入 もうからなければ突然の撤退

児童福祉法の「改正」により、営利企業が認可保育所を経営できるようになりました。全国で保育への企業参入が急速に進んでいます。現在、全国で30ヵ所の企業が認可保育所を経営しており、神戸市の『すくすく保育園』(保育サービス「ウィシュ神戸」)は収益につながる事業ができないことを理由に2005年度末に突然の廃園を決定し、詳しい説明もないまま在園児は急な転園を強いられました。

これまで大阪府は、企業参入は保育所にはそぐわないとしてきましたが、池田市では『株式会社自由自在』が2006年4月からの保育所オープンに向けて認可を大阪府に対して求め、府においても検討されていました。こんな動きのなかで、池田保育運動連絡会は、独自で調査し、企業の実態をつかみ、大阪府や池田市に交渉・申し入れを行うなど粘り強い働きかけをしてきました。結果、「借入金の返済計画などに具体性がない」など府の審査が長引き4月オープンに向けては認可されませんでした。そのため、入園が内定していた園児44名の保護者に対して、別の私立・公立保育所を紹介することになりました。

保育事業の市場化は、子どもたちの平等・公平な保育の保障や保護者とともに積み上げてきた公的保育制度を崩す事態が生じます。また、もうけ優先の経営により、自治体独自の体制は、はぎ取られ、保育士の配置基準や施設設備の基準の引き下げにつながります。

政府は2006年10月より、幼保総合施設『認定こども園』を設置するために法改正を進めています。この制度においても、企業経営をも可能とし、従来の認可保育所や幼稚園の基準を下回るものを『認定こども園』として認可するとされています。その他にも、市町村は関与せず施設と利用者の直接入所を可能としています。給食調理室の設置義務も撤廃しています。

保育水準を引き下げ、公的保育制度を解体する「認定子ども園」

就学前の子どもの保育・教育を担う「認定子ども園」制度を創設する法案が今国会に提出されています。親の就労に関わりなく、幼稚園でも、保育所でも、ゼロ歳児から就学前の子どもを対象に保育・教育を行なうことを可能にする制度です。都道府県の認定を受け「認定子ども園」となります。

法案は、職員配置や設備などの具体的内容について、文部科学相と厚生労働相が定める「基準」を参酌して都道府県が条例で定めるとしています。そのなかには見過ごせない問題があります。たとえば、給食施設は、保育所は調理室が義務付けられていますが、幼稚園は義務付けがありません。給食は、子どもの年齢やアレルギーの有無によってキメ細やかな対応が求められます。子どもの立場で基準を考える事が欠落しています。

また、「認定子ども園」となる保育所では、直接契約制度、保育料の自由設定方式を導入し、国と自治体が責任を負う公的保育制度の解体に道を開くことを特徴としています。これは、子どもの権利をないがしろにするものであり、「子どもの権利条約」に照らしても、重大な問題があります。

(資料)大阪府内における公立保育所廃止・統廃合・民営化の推移
   (2005年11月1日現在で実施年度、保育所名が明らかな所)