>>自治体職場からの告発レポート

[UpDate:2006/5/13]

[保健衛生]
   不健康な“大阪”を放置したまま後退する保健行政

● 府民の健康実態は最悪

大阪府の平均寿命は、2004年で、男性78.36才(全国平均78.64才)で全国43位、女性85.23才(全国平均85.59才)で全国46位とワースト記録は80年代から続いています。

健康悪化の主たる要因は、がん死亡と壮・中年死亡で「がん」死亡率が高く、特に、肺がん・肝がん死亡率は男性・女性ともに高いのです。(表1)

がん死亡を減らすためには、早期発見のために検診受診率を上げることが必要です。がん検診率をみてもわかるように検診受診者は本当に少ないのが実態です。(表2)

これだけ少ない実態があるにも関わらず、国は「健康自己責任論」や「地方交付金」を強行。そのため市町村は、検診の有料化や値上げを検討している実態が少なからずあります。

そしてもうひとつの大阪府民の短命の原因は壮・中年の死亡です。特に男性の自殺(死因の3位)、肝疾患(死因の5位)が多く、15歳以上の男性の自殺の増加率は全国1位となっています。(表3) (公衆衛生情報2004.6藤田利治氏の報告)

表1 気管・気管支及び肺がんと、
   肝がんの年齢調整死亡率
表2 がん検診受診率(2003年)
   <職域での検診は含まれず>

表3 自殺者の推移(実数:人   死亡率:人口10万対)
全国の数値は警察庁「自殺の概要」より、大阪府の数値は「大阪府における成人病統計」より

図1 高い壮・中年死亡
40歳で、全国平均100をこえ、65歳までは、全国の1.15倍
おおさか21冊子(2001版)より




● 中小企業の多い大阪の労働者の健康実態は悲惨

事業主の責任による従業員検診
小規模事業所ほど受けておらず、30人以下の事業所は健診未受診が25%(大阪府統計)です。大阪府は30人以下の統計は、取っておらず、公衆衛生研究所労働衛生部の調査研究によると10人以下の事業所は未受診が40%、4人以下の事業所は未受診が68%にものぼっています。

また、小企業ほど、保健所等公的機関の健診を利用しています。(図2 報告書「50人未満小規模事業所における労働衛生」2000.1より

図2 小規模ほど低い従業員の定期検診実施率



大阪・民商共済会検診結果(2002)では、初診から死亡まで3ヵ月以内の人が35.6%と驚くほど高く、ぎりぎりまで我慢した手遅れ状態での受診状況が現れています。

商売を家族4人でしている家族の大黒柱だったご主人は、売れ行きも悪く、食欲のない日々が続いていた。2〜3年検診も受けていなかった。周りの進めもあって久々に検診を受けた所癌が見つかった。精密検査を受けるように進められていたが無理して仕事をまわしていたところ、検査に行った時は手遅れ状態で入院1週間後亡くなった。

しかし、大阪府は黒田革新府政時代に導入した保健所に1台づつあった「出かける健診車=ハト号」を削減しつづけ、廃止も考えています。また、健診の有料化や値上げを行っています。

全国にない『でかける検診車=はと号』
大阪府は、現在8台を2台に減らす計画を強行


結核ワースト1の大阪で、零細企業の従事者を対象に、結核検診などで大きな役割を果たしてきた「はと号」(胸部エックス線検診車)を、大阪府は、06年度から現行の8台から一挙に2台に削減、07年度末(08年3月末)には全廃しようとしています。

「はと号」は現在、5保健所に計8台(豊中1、茨木1、寝屋川2、藤井寺2、岸和田2)を配置しています。ところが、府は「事業所検診は企業責任」「出勤回数の低下」等を理由に、06年度から藤井寺保健所1箇所だけに2台配置(うち1台は予備)するとしています。

1箇所だけの配置になれば、事実上府内全域を回るのは不可能です。ある医師いわく「はと号の削減は、火事が少ないからといって消防車を減らすのと同じ」と言っています。感染を防ぎ、公衆衛生を守るために、1人の患者が出ても「はと号」で駆けつけるのは、自治体の役割のはずです。

● 子どもも危ない!

大阪は子どもが産まれるのも最下位です。合計特殊出生率は、2003年で1.20人(全国1.29人)で一人しか産まれないということは人口がどんどん減ることになります。
虐待相談件数はこの10年で20倍に増え続けています。全国相談件数の一割は大阪なのです。(表4)

表4 養護相談における理由別虐待処理件数の推移(件数)

大阪府子ども家庭センター報告より(大阪市を除く)

保健所や保健センターでは、全て子どもの発達保障のためにも、お母さんの子育て不安の軽減のためにも、新生児時期の家庭訪問をしたいと思っていますが、大阪府は訪問活動を行なう保健師を削減してきました。また、府の子ども家庭センターはケースワーカーの増員もわずかな人数で有効な手立てとはなっていません。

長期欠席児童も年々増え続けています。(表5)・・中学1 2.51% 小学1.23%(2004年)
*いずれも大阪府統計年鑑

表5 長期欠席児童比率(年30日以上)

● 援助が必要な住民に届いているか?

結核罹患率(人口10万人に対する新規結核患者の割合)は、全国の約1.8倍(大阪市は2.6倍)であり、ピークの2000年以降、府も市も対策を講じ微減していますが、まだまだ全国一高い結核の蔓延地域です(表6)。

表6 結核新登録患者数、り患率年次別推移
(人口10万対)

「まさか オレが……」

風邪と思い、売薬で治療していたが、だんだん痩せてくるし、夜中に寝汗をかくので「少し変やなあ」と思っていた40歳代の男性は、ある日あまりの咳に眠れず受診したら、結核と医師に言われた。結核という病気は昔の病気と思っていた彼はショックうけ、「まさかおれが・・・」と放置していた。その後、気胸を起こし病院に救急車で運ばれ命は助かった。三ヶ月の入院生活ですっかり元気になり、今経過をみてもらいながら仕事に復帰している。

先に紹介したハト号は結核対策としても有効であり、廃止は結核の予防のために地域をまわった検診などができなくなり大阪府の宝がまたひとつなくなることになります。

難病の患者さんや障害者にはどうでしょうか?(表7は大阪市・堺市・東大阪市を除く)
増加する特定疾患患者また、精神障害者の退院促進やひきこもり対策など新たな取組みが実施されるなかで、大阪府は保健所と保健師、ケースワーカーを削減しています。

保健所が遠くなり、人員も減少し府民へのサービスは低下しています。 
加えて、2006年4月から施行される「障害者自立支援法」により、身体・知的・精神障害者の自己負担が増加します。また心臓疾患など、小児慢性特定疾患で手術を要する場合の「育成医療」も、保護者の負担が増えます。障害者の自立どころか自立阻害ともいえる内容となっており、大阪府や市町村では費用の減免措置や、助成制度の実施が求められています。

こころまで遠くなった保健所
(難病連副会長の発言より)

保健所のことは、犬の予防注射のことでお世話になっていたくらいですが、いつの日にか歩きにくい自分に気づき、病院廻りをしました。インターネットで保健所が相談にのってくれることを知り尋ねました。とても親切に病院のことや同じ病気をもつ患者会のことなどを教えて頂きました。「本当にありがたかった」です。最初は病気に何でなるのか?なぜ私なのか?など色々考え戸外にも殆ど出かけない生活をしていました。病気に負けていました。しかし、序々に変っていく自分がありました。今の私は違います。患者会との出会いもありましたが、保健所での親切な保健師さんとの出会いでもありました。14つの保健所が半減して物理的にも遠くなりましたが、心まで遠くなった気がします、これからも難病患者の我々に最初に出会い、色々教えていただく保健所の役割を担って欲しいと思います。保健所も大変なようですが、一緒に頑張って下さい。

● この実態から必要な公的責任が果たせるのでしょうか

○ 減らされてきた保健所の実態
地域保健法成立(1996年)以降、大阪府の保健所は半減され、住民からは遠い存在となりました。人口250万人の大阪市で1保健所に、堺市、東大阪市でもすべて1保健所体制となり、今までの保健所は、保健センターなどに格下げされました。衛生課機能は集中化され、保健所の現地性、総合性が損なわれ、府民サービスは低下しています(表8)。

表8 保健所数の推移(センターは保健センターまたは保健福祉センターなど)
(保健所数は厚生労働省健康局総務課地域保健室調べ)

また、保健師数は人口10万人あたり14.4人(2004.3)と、全国で4番目に少なく、府保健師は284人、政令市、501人、政令市以外の市町村は456人となっています。

(保健師数は、「地域保健・老人保健事業報告」より。保健所数は厚生労働省健康局総務課地域保健室調べ)

地域が見えなくなった(保健師の声)

仕事の分担が、地域分担制から「母子」「難病」「感染症」などの業務分担制に変更されたことで、担当以外の業務のことがわからなくなり、地域全体の問題が見えなくなりました。
又、管理業務が増えて「でかける・知らせる・育つ」という、本来保健所が担う、予防、公衆衛生の仕事が少なくなってきています。
健康であること、病気を持ちながら地域にくらしていける援助は、家族や仕事も含めて生活全体の話を聞いて丸ごとの相談ができて始めてできるものです。
もっと地域に出かけていく仕事がしたい、そのためにもっと人員が必要と訴えていきたいと思っています。

○ 府保健所職員も大幅削減される
大阪府の保健所は、地域保健法成立から10年、保健所削減や業務移管で、約200名が削減されてきました。(表9)

(表9)
1988.4 保健福祉推進室設置(ワーカー等44名増員)
1990.4 「ハト号」を5ヶ所に集中化(ハト号22台⇒15台、放射線技師等15人減)
1994.1 検査室等衛生課業務を4ヶ所に集中化(食品監視員等34人増)
1994.6 保健所法廃止⇒地域保健法成立
1997.4 母子保健事業を市町村移管(市町村支援終了後、保健師等50人減)
2000.4 7保健所を支所に格下げ(事務職・栄養士等40人減)
2001.4 栄養業務を一部広域化(広域チームの設置、栄養士1人減)
2002.4 精神保健業務を一部市町村移管(市町村支援終了後、
    精神保健福祉相談員9人減)
2003.4 高槻保健所を市移管(多職種を40人減)、
    ハト号削減(15台⇒9台)(12人減)
2000.4 14支所を廃止(事務職等50人減)

○ 大阪府公衆衛生研究所の機能削減も必至
大阪府は、衆衛生研究所の職員を2003年度に24名も削減しました。
食の安全・O-157問題をはじめとして府民の安全で健康な生活を脅かす事件が頻発するなかでの機能縮小は、府民の健康危機への予防と発生時対策を著しく低下させることは明らかです。

また、公害監視センターの検査業務の部を民間委託した他、2006年度には、府立5病院の独立行政法人化や健康科学センターの指定管理者制度導入を決定しました。さらに、公衆衛生研究所の建替問題に合わせて、保健所の検査機能の集中化や業務の民間委託も検討しています。府民の安心・安全で健康な生活を守る行政責任を大阪府は限りなく縮小しようとしています。