大阪経済の改革は「破壊」でなく「転換」で世界に誇る中小企業集積地の特性を生かし、サスティナブル(持続可能)な地域社会をつくろう

はじめに

日本経済は、1991年のバブル崩壊による不況以来13年も経つのに景気は回復せず、短い周期の小波動を含みながら長期にわたって不況が続いています。中小企業の状態はきわめて悪化しており、中小企業の倒産も圧倒的なのが不況型倒産です。地域経済の空洞化、衰退も深刻になっています。

とりわけ1990年代の政府の大型公共事業による需要増出政策は財政赤字をつくりだすだけで、景気を回復させることができず、その破綻は明らかになってきています。

21世紀にはいって登場してきた小泉内閣は、「構造改革によってのみ日本経済は再生しうる」といって、効率至上主義(大企業の利潤追求を至上のものとして、その障害をなくすという考え)を掲げて、むき出しの市場主義、規制緩和万能論で持って、社会的公正や人間の尊厳をいっさい無視し、大企業の海外進出と労働者にたいする過酷なリストラを強要し、大規模公共投資と銀行支援に膨大な公的資金を投入してきました。さらに社会保障の切り下げと増税、貸しはがしによる中小企業の倒産促進などを強行しています。その結果、少数の大企業は一時的に超過利潤を蓄積しましたが、国の経済と国民の暮らしは萎縮し、ますます不況からぬけだせなくなっています。

この政府の失政にもっとも忠実に従い、関西空港などの大型開発政策を強行し、90年代以降中小企業がきびしい経営環境に見舞われているときに、具体的で有効な商工対策を実施してこなかった大阪府政により、大阪経済は全国でもより一層深刻な事態になっています。

大阪経済の現状

大阪は、神戸、京都、奈良などを巻き込む中小企業を中心とした大集積地帯です。2001年の事業所・企業統計調査によると、事業所数48万3964、従業者数477万8808人(民営のみでは事業所47万5778、従業者数449万5778人、従業者29人以下の小企業で94.7%)です。大阪の集積規模(とくに中小企業)は880万人の府民の暮らしを守るにふさわしい生産力と雇用の創出ができる潜在能力を今なおもっています。従業者は府内を中心に近隣府県から通勤していますが、通勤時間でも東京と比べてかなり短時間であり、労働力が柔軟で効率的に供給できます。交通手段もさらに一定の改善を行なうならば、有効・効率的に活用できる交通アクセスがあり、都市に住み、都市で働くことが可能な職・住接近の街をつくることができます。東京都と比べても工業生産や流通はけっして劣りませんし、近畿を含めた労働者の雇用を創出することでも重要な役割を果たしています。たとえば2000年の工業統計調査(従業者4人以上)をみても東京都の製造業事業所数が3万0096、従業者数55万6633人、出荷額が17兆9590億34百万円にたいして、大阪は事業所数3万2557、従業者数65万4592人、出荷額18兆0197億11百万円です。




ところが大阪の企業の経営環境は、近畿財務局の2003年10〜12月期景況判断指数では−8.3、従業員数判断指数は−8.0ときわめて厳しい状況です。この厳しい地域経済を支えているのは、中小企業の創造的努力と「頑張りと我慢」の経営です。

大阪経済が厳しい状況に陥っているのは、大阪府政が、政府の430兆円(1990年)、660兆円(1995年)という対米公約の公共投資計画にもっとも忠実に従い、関西空港や大阪湾ベイエリアなどの大型開発政策を強行する一方で、中小企業がきびしい経営環境に見舞われた時に、全国的にかなりの自治体が独自の地域経済振興対策を推進しているのに、圧倒的な集積をもつ大阪の中小企業に対して、具体的で有効な商工施策をとらなかったことが原因です。

大阪以外の近畿圏内では、開発主義などの問題をともないながらも、各県ごとに「街づくり」や産業政策などで自治体間での競争が始まっており、地域の自立をめざして、「街づくり」や産業政策などで独自の施策を立てて推進することが行なわれてきました。とくに滋賀県や岡山県などでは工場誘致条例を制定し、積極的に企業誘致が進められています。この自治体間の競争が地域経済振興の分野においても激化し、大阪からは企業が流出して集積性が衰退してきています。受注能力の高い中小企業や産業部門では、90年代に1,196事業所が海外に生産拠点を移しており、他方で、89年から90年をみても中規模企業を中心に684事業所が近隣の府県などに事業所を移転しています。

こうした企業の流出・移転は、地域の工業集積内での「仕事回し」を大幅に減少させることになります。仕事の減少による大阪の倒産件数はきわめて多く、年間倒産件数が連続2,500件という深刻な事態となっています。




滋賀県や岡山県などでは進出企業(中小、零細など)にあわせて企業団地が選択可能な対応を考えており、県と市町村が一体となって企業誘致を推進しています。さらに90年代半ば以降、中小企業の流出・倒産に加えて、大阪の大企業が本社機能の東京移転を加速的に進めたことが、大阪の経済にさらなる打撃をあたえています。金融政策でも大阪府は困難を深めている中小企業への対策に重大な遅れをとりました。さらにメガバンクの本社東京移転を野放しにし、金融機関の貸しはがし・貸し渋りになんら有効な施策を講ずることなく、不良債権の拡大を許しています。

こうしたいくつもの要因が相乗的に悪影響し、雪ダルマ式に企業倒産を促進するなど、きびしい状況に拍車をかけています。大阪に本所、本社、本店を置く企業の事業所数の推移をみると、1996年の31,042事業所から2001年の20,736事業所へと5年間で事業所数が10,306件、33.2%もの減少になっています(図1)。こうした企業の流出、倒産に拍車をかけたのが、大型公共事業に象徴される空港・高速道路などの建設です。大阪府は、街づくりや府内流通の整備を中心にすることなく、関空や首都圏への通過道路を中心に道路建設を進めてきました。高速道路の整備は西日本各地と大阪、東京などとの直結を可能にしましたが、府内の流通道路の整備や、街づくりとの整合性、地元の中小企業への支援を全くかえり見なかったために、かえって東京一極集中と企業の流出を促進させることになりました。これを利用した岡山県や滋賀県などは、出荷輸送時間の短縮によって大阪から出荷する場合と同じ条件で大阪や東京に出荷する条件ができました。こうしたことが、大阪の集積・地理的メリットを帳消しにして、近隣府県などに生産点を移行することを可能にし、それを加速したのです。

中小企業の大集積を守り、雇用の拡充を行い、
サスティナブル(持続可能)な大阪のまちを

大阪経済を再生するためには大阪にある豊かな資源・資産を活用することが必要です。大阪には中小企業を中心とする工業だけでなく、近郊農業、林業、漁業があり、伝統的な商業も数多く集積しています。これだけの諸条件を併せ持っている都道府県は大阪以外にはあまり例を見ません。国際的にも誇るべきものがあります。大阪に集積するこれらの産業を再生し、循環型の産業・経済を発展させるならば大阪経済の再生は可能です。とくに大きな雇用創出能力をもっている工業集積を再生し、雇用を拡大することが重要なポイントです。

大阪の諸条件を生かすことなく、大型開発一辺倒の府政によって、大阪の事業所数、従業員数の減少率はともに全国や東京と比較して2倍近いという深刻な状況になっています(図6)。失業率も深刻です(図4)。大型公共投資計画を実行した90年代以降、府民所得は減少し、企業の開業が減少し、廃業が増加しており、そのことが消費の後退(表10)、生活保護世帯の急増(図5)など生活関連の指数の軒並み悪化をもたらしています。府民所得の推移を見ると、1991年度の一人当たり府民所得は366万4千円、2001年度では309万6千円(−16%)と急速に減少してきています(表12)。そのことにより、府民税も1990年度(決算)の実質税収1兆3510億円から2003年度(当初)7639億円へとほぼ2分の1(56.5%)に減少しています(図7)。かつてない大規模公共投資を進めて、このような深刻な結果を招いているのに、それに無反省に大規模公共投資を継続することは許されません。430兆円と660兆円の投資が大阪でも何の効果もないことを示しています。

府の施策を抜本的に転換し、雇用を創出して府民所得の2割増しを達成するならば府民税の収入は倍増することになります。大阪府の財政再建をはかる上でも、大阪の宝ともいうべき中小企業の集積性を守り育てる暖かい施策が必要です。

政府言いなりの大型開発政策の転換を

地域経済の再生にとって大事なことは、府民が「住みたい」、「住んでよかった」、「住みつづけたい」といえるまちづくりを進めていくことです。そのためには、府民の暮らしの土台となる中小企業と地域経済を再生して、地域で生活する人々の安定した雇用と就労の場を保障し、必要な財やサービスが受けられるようにすることが必要です。そのために地方自治体が先導的な役割を果たすことが重要です。

ところが大阪府政は、90年代以降も中川−横山−太田府政と政府言いなりの府政が続きました。横山府政時代に確立された官僚主導で政府に直結した府政を太田府政も忠実に引き継ぎ、府民生活より開発行政に懸命に取り組んでいます。このような府政が大阪府と府下市町村との協力や一体感までなくしてきています。

あらためて公共投資のあり方を見直し、大型開発一辺倒の政策を中小企業や府民生活の実態に合わせて根本的に転換することが必要です。

そのためには、既存の企業を中心にして、受注機能の高い企業への育成・誘致、新製品開発、後継者育成など中小企業にとって利用しやすい研究機関を設置すること、地域産業はローテクとハイテク産業のバランスを守り、中小企業の創造性、即断性、起動性という特性を生かし、先進技術・特殊技術などの企業群を中心に、新たな受注能力を高めることが必要です。ローテク企業の集積を守ることは雇用を確保するうえでも重要でありハイテク産業の発展の保障にもなります。さらに環境を守る産業を大切にし、21世紀の新しい都市づくりに積極的に関わることが重要です。また、すでに投資・開発した「りんくうタウン」などの空き地を府民生活と結びつけて有効に活用することや、新しいエネルギー開発(天然ガス・石油でない自然エネルギーの活用)、バイオなどの自然にやさしい廃棄物処理と活用などの研究・開発(ごみ処理ではなくごみ利用に転換)、都市に安心して住める環境の整備など労働力を有効に効率的に活用するための交通網や住宅の整備等、総合的に府民本位の街づくりを推進していく政策が求められています。