サスティナブルな地域社会をめざす雇用・地域経済政策の提言(案)

大阪経済を再生し、府民が住みよい街づくりをすすめるために、私たちは次の5つの政策を提言します。

中小企業の特性(創造性・機動性・即断性)を生かし、受注能力を高める協力・支援体制をつくる。

小売業・商店街への支援を強め、誰もが手近かな所で買い物ができる、まちづくりを進める。

生活と福祉の向上、防災体制の充実、エネルギー政策の転換、農林漁業振興、環境保全に役立つ新しい公共事業をすすめる。

青年・失業者への職業訓練を支援し、雇用の確保・拡大をはかる。

大企業に地域社会の一員としての責任を果たさせ、「公正な取引」と「働くルール」を確立する。



中小企業の特性(創造性・機動性・即断性)を生かし、受注能力を高める協力・支援体制をつくる。

大阪をはじめとした近畿圏は、高い技術力をもち、多種多様な業種にわたる中小零細企業が集積しています。この特性を生かし、地域・業種間の情報・技術交流を促進して機動的に「仕事おこし」「仕事まわし」をサポートする体制をつくれば、消費者のニーズにみあった製品を開発し、受注能力をさらに高めることができます。

1.人・モノ・情報・技術を有効に活用して受注能力を高めるために製品・技術開発、販売を促進するネットワークをつくる。

(1)地域間・異業種間の交流を促進し、中小企業の受注能力を高める。

製品・技術の共同開発など、起業ネットワーク化をはかる。
地元の大学等研究機関との連携・交流を促進し、産学官の共同事業を推進する。

(2)中小企業の技術の開発・保全・継承・販路拡大の支援をはかる。

技術を商品化・実用化させるための材料分析・品質検査・技術相談・営業支援を行う。
中小企業の技術をまもり継承・発展させる「マイスター制度」を確立する。
・技術をもった熟練工や中小業者を登録する制度を設ける。
・登録した人が技術を伝承するための職業訓練・教育を行えるようにする。
・技術の伝承に協力した人・企業に「マイスター」の称号を付与する。

2.中小商工業者に対する行政の支援体制をつくる。

消費者のニーズにみあった製品の開発・購入・販売をすすめるために、地域の商工業者に対する行政の支援体制を強めます。そのために、地域ごとに支援の拠点となる公のセンターを開設・増設し、公的金融支援体制の充実をはかります。

(1)身近で利用しやすい中小商工業活性化支援センター(仮称)を設置して支援の拠点とする。

専門コンサルタントを配置した相談コーナーを設ける。
新しいスキル(技術・能力)を獲得するための情報提供・研修を行う。
異業種間の交流 消費者ニーズの情報収集と提供を行う。
中小零細企業の経営者・従業員の厚生・文化・スポーツ・健康増進施設を設ける。

(2)公的金融支援体制を充実する。

貸し渋り・貸しはがし対策を強め、中小商工業者が安定した資金調達を得られるように信用金庫に対する公的金融支援を拡充する。地域の企業・金融機関・消費者・労働者の協力体制をつくる。
「資金繰り円滑化特別融資制度」の金利の引き下げと対象の拡大をはかる。
スタートアップ資金の要件緩和・無担保無保証人融資の限度額引き上げをはかる。

(3)官公需の談合を防止し、地元・中小企業への発注率の向上・発注機会の拡大をはかる。

官公需における談合を防止するために、発注価格を事前に公表する。「官公需代金相談窓口」(仮称)を常設し、買い叩き、不払いを起こした元請業者には指名停止を含め厳しく対処する。
官公需の中小企業への分離分割発注を適正価格ですすめる。
官公需の中小企業への発注率を65%以上に引き上げる。発注率については目標および実績を公表する。
地方自治法234条にもとずく「随意契約」を公正に運用するために「小規模工事登録制度」を創設する。自治体として福祉・教育関係の需要費削減を見直し、備品・消耗品の発注を地元の中小商工業者に行う。

小売業・商店街への支援を強め、誰もが手近かな所で買い物ができる、まちづくりを進める。

「大根1本買うのに往復で1時間以上もかかる・・・」。大型スーパー店は、近所の商店街で買い物するのと比べて、自宅から往復するのに多大な時間がかかります。お年寄りや障害者、子どもなど、自家用車で自由に移動できない交通弱者は大変な不便を被ります。自家用車に頼らなくても、徒歩で買い物ができ、必要な生鮮食料品が、その日に必要なだけ短時間のうちに買えるようにすることが必要です。消費者が徒歩圏内で生鮮食料品が購入できるように、小売業・商店街の活性化をまちづくりの中心課題にすえて、商店街の維持・振興をはかります。

(1)大型店出店者に、地元の商店街・住民との事前協議を自治体として要請する。
出店・拡張・撤退を計画する大型店に対して、地元商店街や住民との事前協議を行うことを自治体として求める。大型店には、地元の商店街や住民の意見を尊重するように要請するとともに、意見・要請に対する大型店の側の回答や意見を公表する。

(2)自治体に「商店街振興対策委員会(仮称)」を設置する。行政・住民・中小商工業者による商業施設の適正配置に関する調査を実施する。消費者が徒歩圏内で生鮮食料品等が買えるように、商店街の振興・小売業者の誘致・配置などの基本計画をたてて実施する。

(3)店舗の開設から仕入れ・販売まで、小規模店舗への相談・支援体制を確立する。
自治体として、商店街の空き店舗の有効活用をすすめる。商店街の顧客確保をめざし、その地域の消費者がどのような業種を求めているのかを調査し、誘致する。空き店舗の家賃補助を充実する。

生活と福祉の向上、防災体制の充実、エネルギー政策の転換、農林漁業振興、環境保全に役立つ新しい公共事業をすすめる。

雇用確保にも住民サービスにも役立たず、一部のゼネコンの利益にしかならない現在の大型公共事業を抜本的に転換します。住民生活と福祉の向上、農林漁業・中小企業振興に役立つ公共事業を促進して、雇用拡大・地域経済の活性化と住民の生活・福祉の向上を一体のものとしてすすめます。

1.生活・福祉の向上・防災体制の充実・農林漁業振興・ゴミの資源化・環境保全・中小企業振興に役立つ公共事業を促進する。

(1)生活・福祉・防災・環境型の公共事業を推進する。

学校校舎の改修・改築
危険校舎を行政の責任で調査し、改修・改築工事を行う。
福祉施設・特別養護老人ホームの建設
高齢者福祉計画等により建設計画を立てて実施する。
公営住宅の建替え・改修
老朽化・安全対策・エレベーターの設置などの改修・改築工事をすすめる。
生活道路のバリアフリー化のための工事
道路の段差解消、安全なガードレールの設置、歩道整備などの事業をすすめる。
ITなども活用した視力・聴覚障害者への歩行案内システムを開発する。
公共施設・駅舎のバリアフリー化・耐震補強を行う。
個人の住宅リフォームへの補助事業を創設する。
住民が自宅の住宅改修工事を地元の中小工務店に発注した場合、改修費の一定額(率)を自治体として補助する。
耐震貯水槽の設置など防災・震災対策事業の推進
消防車の入れない道路に耐震貯水槽を設置する。
公共施設にスプリンクラーの設置をはかる。
緑化対策を促進する。
ヒートアイランド対策の一環として、公共施設・ビルの屋上・壁面を緑化する。
防災と水質保全のために、河川浄化、里山保全、森林整備を推進する。

(2)大阪の近郊農業・漁業・林業の振興をはかる。

近郊農業、漁業、林業の支援を自治体としても強める。生産・流通・消費を一体としてとらえ、有機農業・自然農法など生態系と調和した生産・「地産地消」のとりくみを支援する。
保育所・幼稚園・小中学校・老人施設・病院などの給食メニューに、地元の農産物・魚介類を積極的に取り入れる。
大阪の農林漁業と自然・歴史・文化・観光と結びつけた製品(ブランド製品・地酒など)の開発・販売をすすめる。

2.自然エネルギーの活用、交通体系の整備、リサイクル・リユース・地域コミュニティーの再生など新事業の本格的な研究・検討と具体化をはかる。

「環境破壊」「浪費と無駄遣い」「コミュニティーの崩壊」という20世紀の「負の遺産」を克服し、中・長期的な展望と計画をもって、福祉・生活向上・環境保全に向けた新エネルギー政策への転換と新事業に着手します。

(1)エネルギー政策の転換

石油エネルギーへの依存を低め、環境にやさしい自然エネルギー(太陽光・風力・波力・バイオなど)開発に転換する支援をする。
自然エネルギーを公共施設・公共交通機関などに取り入れる。公共施設に太陽光発電施設を設置する。

(2)リサイクル・リユース(再利用)の促進

ごみの焼却・廃棄処理を転換し、リサイクルを促進する。
「燃やす」「埋める」という従来のゴミ処理方策を抜本的に改め、分別収集の徹底・リサイクル事業の支援・促進をはかる。
バイオなど新技術を活用し、ごみ処理の改革を新たなエネルギー転換政策に結びつける。
過剰生産のムダを省くリユース(再利用)を促進する。
一度消費した商品は「廃棄」でなく「再利用」を促進・支援する施策を具体化する。パックからビンへの転換、衣料材料の再利用、自転車の補修の支援などリユースを促進する事業の具体化をはかる。

(3)交通手段と体系の転換

大都会の中に「陸の孤島」をつくらないために、自家用車に頼らない公共交通の整備をはかる。
自動車中心から、交通弱者にも配慮した公共交通の整備、コミュニティー・バスなどの積極的な活用をはかる。
路面電軌鉄道、環境にやさしいエネルギーを動力源とするバス、自転車の利用促進など、公害を出さず環境への負荷の少ない交通手段の活用を促進する。

(4)職・住接近をすすめ、3世代同居を可能とする地域コミュニティーをつくる

職・住の接近を促進し、「通勤は自転車で、買い物は下駄履きで」できる地域社会をめざす。小中学校の学区単位を基本に、通勤・通学(園)・買い物・通院・通所・レクリェーションができる地域コミュニティーを形成する。そのための地域計画をたて、企業・公共施設・商店街・住宅の設置を支援・促進する。
祖父母・親・子3世代が同居して暮らせるための地域環境と住宅の整備をはかる。
親・子・孫の異世代間の交流を家庭と地域の両面で促進する。

青年・失業者への職業訓練を支援し、雇用の確保・拡大をはかる。

全国でも深刻な大阪の失業問題。とりわけ、青年・高校生の就職問題は、モノづくりの技術の継承、地域社会の将来にとっても放置できない重大な問題となっています。新しい事業を開拓して雇用拡大にむすびつけるとともに、青年・高校生などの未就労者、失業者が、社会で働くのに必要な能力・技能を身につけられるように、自治体として支援を強めます。

1.職業能力開発のための教育・支援を充実する。

(1)失業者、未就労の青年・高卒者に対する職業訓練・職業教育を充実する。基礎技術・技能を修得する各種の職業訓練の科目・受講定員を拡充する。
(2)民間の職業訓練・職業教育が充実するように自治体としても支援する。
(3)受講費用を補助して、学費の無料化・低額化をはかる。
(4)障害者のための公共職業訓練の整備・拡充をはかる。
(5)自治体として、高校生・青年の職業訓練・就職準備の支援をかねた就労(インターンシップ)を実施する。
(6)インターンシップを行う企業に対して、奨励金・補助金等の支援を行う。

2.青年・高卒者の採用を企業に働きかけ、就職機会の拡大をはかる。

(1)青年・高校生の就職問題を、「青年の地域社会への参画」「まちづくりの後継者の育成」「モノづくりの技術の継承・発展」という立場から地域政策・自治体行政の中心課題に位置づけ、高校・大学・専門学校と地域・自治体・企業が連携した就職支援対策を促進する。
(2)青年・高卒者を雇用する中小企業への奨励金を充実する。
(3)自治体・企業・学校が共同して高校生を対象にした「就職フェア」を実施し、広く高卒者に就職活動の機会を提供する。
(4)青年・高卒者のトライアル雇用事業を実施・促進する。

3.自治体が自ら、雇用創出と拡充をはかる。

(1)福祉・医療・消防・教育など住民のくらしに必要な分野の増員・採用枠の拡大をはかり、高校卒業生・青年を積極的に雇用する。
(2)自治体の正規職員の削減、欠員不補充をやめ、住民サービスに必要な分野は新規採用を行って職員を配置する。
(3)「緊急地域雇用創出交付金」を有効に活用し、福祉や環境保全(公園・森林・里山保全)など新たな仕事も開拓して雇用拡大をはかる。新規学卒の未就労青年を対象にした事業を加える。
(4)ホームレスの自立支援を強め、就労と住居の確保、必要な医療を保障する。

大企業に地域社会の一員としての責任を果たさせ、「公正な取引」と「働くルール」を確立する。

地元の中小企業や労働者を無視した大企業の身勝手なリストラ・撤退を規制し、大企業にも地域社会の一員としての責任を果たさせることが重要です。また、自治体の公共・委託事業を安請けでダンピング受注したり、下請けへの不払い、悪質なピンハネを防止し、公正・適正な受注ルールを確立します。

1.「リストラ・アセスメント条例」を制定し、大企業に地域社会との共存を求める。

(1)大企業に雇用確保の社会的責任を果たさせるために、サービス残業の一掃、国際公約である政府目標の年間総労働時間1800時間の早期達成、新たなリストラの中止、新規採用の拡大を自治体として要請する。

(2)地方自治体として、住民の生活と営業、地域経済に大きな影響をおよぼす行政区内の大企業に対して、事業の縮小・工場移転・人員削減等のリストラ計画があるのかどうかを把握する。大企業にリストラの計画があれば、事前に協議を申し入れ、住民の生活と営業、地域経済に悪影響を与えないように働きかける。

(3)地域の雇用と経済に影響を与える事業の縮小・工場閉鎖・移転・人員削減等を計画する企業は、6ヶ月程度の猶予期間をもって、事前に当該の自治体の首長・議会に対して地域経済・当該従業員・家族への影響評価とその緩和策、対象労働者の再就職支援計画等の提示を求め、事前の協議を義務づける「リストラ・アセスメント条例(仮称)」を制定する。

(4)これまで自治体から様々な便宜提供を受けてきた大企業が、海外・他府県に政策拠点を移して、府内(行政区内)から撤退する場合、撤退後の地域経済再生のために一定の納付金を地元自治体に納付する制度を設ける。

2.「大企業地域貢献度評価委員会(仮称)」を設置して調査し、結果を公表する。

自治体に、大企業の地域経済に対する影響や貢献度を評価する「評価委員会」を住民・中小業者・学識経験者等を構成員として設置する。

評価項目として、関連下請企業取引関係の健全度(下請企業・労働者代表等からの聞き取り)新卒者の採用、雇用維持と雇用創出、パート労働者など不安定雇用労働者の処遇改善、サービス残業の根絶、労働時間短縮、女性差別の撤廃、男女平等の推進、男女ともに仕事と家庭が両立できるための措置、温暖化、ゴミ処理対策などの環境改善、大銀行には中小零細企業に対する貸し出し金額等を設け、毎年、評価結果を公表する。

3.大企業による単価引き下げ強要など、不公正な取引を取り締まる

(1)自治体として「不公正取引ゼロ宣言(仮称)」を発表し、違法・不当な取引を許さない姿勢を明確にする。

(2)自治体として、公正取引委員会や近畿経済産業局とも連携して、行政区内の中小零細企業の下請け取引の実態を調査する。悪質な違反事例に対しては、不公正是正のために相談に乗り、相談者の了解を得た上で、親会社名や事実経過を公表する。

(3)「下請け代金支払い遅延等防止法」および「下請け中小企業振興法にもとづくガイドライン」の講習を、中小下請企業を対象に開催する。

4.自治体の公共・委託事業に「公正な発注ルール」を確立する。

(1)国や自治体の公共・委託事業に従事する労働者の賃金・労働条件の改善を求めたILO第94号条約(公契約における労働条約に関する条例)を批准するように自治体として政府・国会など関係機関に働きかけるとともに、この趣旨にそった「公契約条例」を制定する。

(2)「公契約条例」が制定されるまでの間は、公共工事や委託契約等において「事業に従事する労働者の賃金は2省協定賃金を下回らない賃金とする」と明記するなど、賃金・労働条件の適切な確保を明記した契約を関係企業等の間で取り交わす。

(3)公共工事や委託業務および官公需などに従事する労働者の賃金・労働条件について、契約時の積算単価にもとずく公正・適正な賃金が確保されるように契約業者等を指導する。

(4)契約にあたっては、正常な取引と適切な賃金が支払われるように「低入札価格調査制度」(自治令第167条の10第1項)および「最低制限価格制度」(自治令第167条の10第2項)にもとずく基準を設けて公表するとともに、すべての契約に適用する。

(5)自治体の広報等の印刷物を製造品目扱いとし、予定価格を定め、入札終了後に予定価格を公表する。予定価格は物価資料をつくる(財)経済調査会の積算資料「印刷料金」などにもとづいて算出し、適正な利益が確保できるようにする。