>>第16回大阪地方自治研究集会 [UpDate:2007/3/10]

[公共交通分科会]
大阪市バス・地下鉄の民営化を考えるシンポジウムを開催


 第16回大阪地方自治研究集会の分科会「市バス・地下鉄の民営化を考えるシンポジウム」が2月24日(土)、大阪市北区のいきいきエイジングセンターで開かれ、市民、学生、自治体職員、民間労働者など65人が参加しました。このシンポジウムは、大阪市が財界の意向を受けて公共交通の完全民営化を図ろうとしていることに対して、市民の立場からこの問題を考える場にしようと開催したものです。

 シンポジウムは大阪市バス労組の組合員が設立した都市交通研究所、大阪自治労連、大阪自治体問題研究所で実行委員会をつくり準備をすすめてきました。2月16日には大阪自治労連市内地協・大阪市バス労組が大阪市交通局前で早朝宣伝を行い、民営化の問題点とシンポジウムの案内を知らせるチラシを出勤する交通局職員に配布。シンポジウムの当日はマスコミ3社(朝日・読売・大阪日日)も取材にかけつけました。

シンポジウムでは最初に「大阪の交通・過去・現在・未来」と題して西村弘氏(大阪市立大学大学院教授)が基調講演。利用者のニーズや需要に対処するのでなく、巨大プロジェクトやインフラ整備を先行させてきた戦後の大阪市の開発事業について「交通事業はあっても交通政策は欠如していた」と指摘。韓国のソウル市が市民の合意で自動車削減政策を推進し、高速道路を撤廃して都心に「清渓川」(チョンゲチョン)を復活させ、歴史、環境、生活に配慮した公共交通政策を実施して経済も活性化をさせている事例を紹介し、「大阪でも、経済、市民生活、歴史、文化等を総合的に考察した上で、それに対処する都市交通政策をとるべきだ」と問題提起をしました。

住民参加で公共交通を守る 〜和歌山、京都の経験を報告〜

基調講演を受けて柏原誠氏(大阪経済大学)をコーディネーターにシンポジウムを開会。廃線の危機にあった和歌山のローカル鉄道・貴志川線を南海電鉄から引き継ぎ、住民とともに再生を手がけている礒野省吾氏(岡山電気軌道株式会社専務取締役)、京都市が直営の市バス事業を撤退させた後、市民の力でコミュニティバスを走らせている京都・醍醐の「市民の会」副会長の吉村睦子氏、大阪市役所労働組合委員長として公共交通問題に取り組んでいる成瀬明彦氏がシンポジストとして発言しました。

 礒野氏は「地域の公共交通を再生させるには何よりも地元の熱意が必要。鉄道経営の重要事項を決める運営委員会には住民にも参加をしてもらっている。『ネコの駅長』を常駐させるユニークなイベントも行い市民に利用をよびかけてきた。利用者数も10%増え、最初は5億円あった赤字も8000万円まで圧縮させている」と、住民に密着した鉄道事業を経営している経験を語りました。

 吉村氏は「私たちの住む地域は坂道が多く、お年寄りが病院や買い物に行くには公共交通がどうしても必要だった。『行政がやらないのなら自分たちでやろう』と、住民、NPO、大学、民間交通事業者が共同してコミュニティバイスを走らせている。バス路線や停留所の位置の決定から、車両、路線図、切符のデザインまで市民の意見を取り入れながら合意形成をはかってすすめ、運営に自ら関わる面白み、喜びも感じている」と報告しました。

 成瀬氏は「今こそ大阪市の公共交通のあり方を市民参加で、双方向で議論するべき。地下鉄の完全民営化は財界の利権によるもの。推進役である上山信一氏が『地下鉄は日銭が4億円も入る独占事業。眠れる超優良会社』と発言していることがそれを証明している。市営地下鉄・バスは公営のままでも堅実に経営できる。」と指摘しました。


公共交通はまちづくりに生かされてこそ

参加者からは「市バス地下鉄の民営化は反対だ。これまで蓄積してきた市民の大切な財産が民間資本に売り渡されるのは許せない」(市民)、「交通事業者は儲かるところだけ路線を走らせていればよいと考えていないか。もっと市民の声を聞くべきだ」(市民)、「仕事で体を壊して休職している。私鉄の職場は苛酷な労働条件で安全が軽視されている」(私鉄労働者)、「給与は手取り20万円で生活保護水準以下。ワーキングプアの状態で安心して働けない」(市バス労働者)、「バスの運転手が体を壊しマスクをして勤務しているのを見た。こんな働かされ方では市民の安全にとっても不安」(市民)、「交通事業者は労働者に犠牲をおしつけて収益を上げるのでなく、市民のニーズにあった事業展開をするなど、本来の経営努力をするべきでないか」(学生)など、公共交通に対する活発な意見が出されました。

会場からの発言を受けてシンポジストから再度発言。「経営は大変だが、うちの会社では収益があがれば必ず3等分して、従業員の待遇改善、株主への配当、事業の改善にまわしている。貴志川線では従業員を地元から雇用しており、みんな熱意をもって働いている。仕事は苦しくても笑顔で働き続けられるようにしていきたい。鉄道はまちづくりの中でこそ生かされるものだと感じている。みなさんもあきらめずにどんどん意見を出していってほしい」(礒野氏)、「コミュニティバスを運営して社会に貢献できるやりがいを感じているが、実際のところは大変。本来は公共交通は行政がやるべきだと思う。これからも自分のまちのビジョンをもって行政にも働きかけていきたい」(吉村氏)、「いま急がれているのは、高齢化社会に対応した交通政策への転換だ。重度の障害者も含め、誰もが人間らしく生きるための大事な『装置』として公共交通を位置づけていくべき。営利優先でなく市民合意をはかって交通政策を確立することが大事だが、そういった事業は民営化ではできない」(成瀬氏)とそれぞれの立場から意見をのべました。

 討論を聞いて西村氏は「公共交通を考えるにあたっては、まず『大阪をどんなまちにしたいか』というビジョン、都市政策をもつことが必要。そのためには何よりも市民の声を聞くことが不可欠だ。市民の声を聞かずに民営化を進める今の大阪市のやり方ではダメ。交通労働者にとっても、安心して働くことができ、誇りの持てる職場でなければならない」とコメントしました。コーディネーターの柏原氏は「きょうのシンポジウムで出された貴重な意見をもとに、大阪の公共交通について、引き続き市民が参加して討論できる場をつくっていきたい」とまとめました。