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自治体の公共サービス・委託事業に、公正な契約と労働条件を確立するために―大阪自治労連「公契約」運動方針 [2006.2.24]

自治体の公共サービス・委託事業に、
  公正な契約と労働条件を確立するために
     ―大阪自治労連「公契約」運動方針

2006年2月10日 大阪自治労連第51回中央委員会

1.はじめに ―劣悪な状態におかれている委託労働者の雇用・賃金

地方自治体が委託する公共事業、委託事業では、「安ければ良し」とするダンピング入札や、委託料から労務費の不法なピンハネがまかり通っています。

国や自治体が委託業者との間で行う契約は、民間業者の間で行われている契約以上に厳しい価格がおしつけられています。このために委託労働者の大幅な賃下げ・不安定雇用化が進み、生活保護基準以下の賃金で働く労働者まであらわれています。市役所の広報紙の印刷費も通常の見積価格の3分の1程度にまでたたかれ、市役所の庁舎を清掃する労働者が最低賃金以下で働かされていた例まであります。

賃金だけでなく雇用問題も深刻です。自治体から安い委託料で請け負った業者は、運営コストの大半を占める人件費を安くして収益をあげるために、労働者を正規では雇わずに、パート・アルバイトなど不安定な身分で雇用しています。入札で委託業者が替わるたびに、これまで働いていた労働者が解雇されています。新しい業者に雇用が引き継がれても、委託料金が従前より減らされることによって、さらに劣悪な雇用条件で働かされています。

最近では、公然と最低賃金以下で働かされる事例もあらわれています。一部の自治体では、自治体の業務をNPO法人に安い料金で委託して、委託労働者を「有償ボランティア」という名目で最低賃金法や労働基準法の適用をはずして働かせています。

 委託労働者の賃金は、その地域に働く民間労働者よりも低く、地域の地場賃金を引き下げる役割まで果たしています。委託労働者の賃金と直営部門で働く自治体労働者の賃金との間に「格差」をつくりだし、これを「是正する」として、自治体職員の賃金をさらに引き下げたり、これまで直営で実施してきた事業を民間委託や民営化するリストラが一層促進されようとしています。

 委託労働者は不安定雇用で短期間のうちに入れ替わるために、仕事についての専門性や経験も蓄積されず、公共サービスの質が低下する問題まで起こっています。

民間委託や民営化をした保育所では、経験の浅い若い保育士がマニュアルに頼って保育をしています。学校給食の調理業務を民間に委託した学校では、正規調理員が大幅に減らされ、最低賃金の水準で働くパート調理員に置き換えられています。パート調理員は短期間で入れ替わるために経験や専門性が蓄積されず、調理の遅れ、調理の失敗、異物混入などが直営校よりも多く発生しています。

ゴミを焼却する清掃工場も同じです。かつて未曾有のダイオキシン被害をもたらした大阪府能勢町の清掃工場では、委託業者が労働者を安全操業の知識も与えず低賃金・不安定雇用で働かせていたことが事故の重大な原因になっていました。

2.背景には自治体の市場化

 自治体の公共・委託事業に従事する労働者には、人として「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条)を営む権利があります。委託労働者にも、人間らしい生活を支える賃金・労働条件が保障されなければなりません。また、委託労働者が従事する仕事は、公務員と同様に住民の安全やサービスに責任が求められ、仕事についての熟練、知識、専門性が求められます。

 しかし自治体は業務を民間業者に委託する際に、委託労働者の生活や権利を考慮することはほとんどありません。入札・契約にあたっても「委託料は安ければよい」「最低賃金さえ守っていればよい」と入札でダンピング競争をあおり、委託労働者の賃金・労働条件については「受託した業者と労働者がそれぞれの雇用契約の中で決めることだ」として、関知しようとしません。

 公共工事では労務単価を見積るにあたって「2省協定単価」(国土交通省と農林水産省が職種・都道府県ごとに毎年設定する)という目安がありますが、この目安も毎年切り下げられています。しかも「2省協定単価」の金額を労働者に支払う法的義務が受託業者には課せられていないために、元請け業者や使用者によってピンハネされ、労働者にはその半分かせいぜい7割程度しか支払われていません。下請け労働者には賃金不払いも頻繁に起こっています。

 一方、公共工事以外の委託業務の場合は、労務単価を見積る公式の目安すらありません。そのために人件費は見積もり・入札の段階で徹底して削られることにより、最低賃金かそれ以下の水準にまで落とされているのです。

 「小さな政府・自治体」をかかげる小泉内閣・財界の自治体版構造改革により、公共サービスの支出を市場化によって極力切り下げるアウトソーシングの手法として、「安上がりの入札・委託契約」が活用されています。この手法は、最近では「公の施設」の管理運営を委託する「指定管理者制度」にまで広がっています。さらに政府は、「安上がりの入札・契約」の対象を自治体業務全般に広げる「市場化テスト」の導入まではかろうとしています。

 このような状態を放置すれば、「住民の福祉の増進を図る」(地方自治法第1条)役割を果たすべき地方自治体が営利企業に変質し、住民に対する公的責任が果たせなくなる事態に至ります。安全やサービスよりも効率や利益を優先することにより、最大の犠牲になるのは住民、利用者です。いまこそ、自治体の委託業務の安全・公共性をまもり、委託労働者が仕事についての専門性を持ち、住民のために安定して働き続けられる賃金・労働条件を自治体の責任で確保させることが求められています。

3.抜本的な改革へ―ILO94号条約を批准し、「公契約法・条例」の制定を

 そのためにはILO94号条約にもとづく「公契約法・条例」を制定することが不可欠です。
「公契約法・条例」とは、国や自治体が公共・委託事業を民間業者に発注する場合、この事業に働く労働者が、人間らしい生活ができ、専門性をもって仕事ができるように賃金・労働条件を公正・適正に確保させる制度です。

 ILO第94号条約(公契約における労働条項に関する)は、国や自治体などの公的な機関が発注する事業について、社会的に適正・公正な水準の賃金・労働条件を確保することを契約に明記するよう義務づけています。その水準も、同一の産業・同一の業種で確立している労働協約や最低賃金などの法令よりも有利な水準にすることを義務づけています。

2001年現在、イタリア、フランスなどの「先進国」をふくめ世界59カ国が批准しています。また同条約を批准していないアメリカでも、地域からの「リビングウエイジ(生活保障賃金)」の運動で、約80の自治体で「公契約条例」が制定されています。条例では、自治体など公的な団体と業務委託契約を交わしたり、補助金を受けている民間業者に対して、事業に従事する労働者の賃金の最低水準を設定して「これ以下の賃金で労働者をはたらかせてはならない」と義務づけています。

この条例により、委託事業に従事する労働者の最低賃金は、その州の法定最低賃金の2倍近い水準にまで引き上げられています。日本政府も早期にILO第94号条約を批准し、「公契約法・条例」を制定することが求められています。

4.現行の法律でも公契約の民主的規制は可能

 「公契約法・条例」の制定を実現する闘いをすすめると同時に、現行の法律を活用してダンピングやピンハネに一定の規制をかけることも可能です。2000年11月に「入札・契約適正化法」が制定されたとき、「事業に従事する労働者に適正な賃金・労働条件の確保が適切に行われるよう努めること」とする参議院附帯決議があげられました。この決議にもとづいて、公共工事の受注者に対して「2省協定単価」をふまえた賃金を支払うよう行政指導する自治体が、建設労働者を中心にした闘いで広がりつつあります。

 公共工事以外の委託契約においても、事業の公共性や委託労働者の生活・権利が保障されるように適正な人件費を見積って予定価格を設定し、最低制限価格を設定すれば、ダンピングにある程度の歯止めをかけることができます。

入札は価格をもって落札者を決めることになっていますが、1999年に改正された地方自治令第167条の10の2では「予定価格の制限の範囲内の価格をもって申込みをした者のうち、価格その他の条件が当該普通公共団体にとって最も有利なものをもって申込みをした者を落札者とすることができる」(傍線は引用者)と定めており、価格以外にも自治体にとって「有利」となる条件を首長が定め、複数の条件を総合的に評価して落札者を決める入札制度(総合評価型入札)が導入できるようになりました。

大阪府は、庁舎の清掃業務を委託する際に、入札の条件に「障害者の雇用」を加えて落札者を決めています。全国でも入札の評価基準に「男女平等施策の進捗状況」や「環境対策へのとりくみ」などを加える自治体もあらわれています。

 この入札制度は「政策入札」ともよばれていますが、委託事業の入札に参加する業者を評価する基準に「公正な労働基準」を確保する基準を設ければ、委託労働者の雇用条件を守ることができます。

国や自治体に対して、「公契約法・条例」の制定を迫るたたかいと、現行法のもとで可能な「公契約規制」の実現をめざす「2本立て」のたたかいを職場・地域からすすめることが必要です。

大阪自治労連は、各自治体当局に対して次の要求をかかげ、地域労連、民間労働組合、中小業者、住民団体とともに実現をめざしてたたかいます。

(要求)

  1. 大阪自治労連が春闘要求で掲げる自治体内最賃を、自治体が発注する公共工事や委託業務に従事するすべての労働者に保障すること。
  2. 公共工事においては「2省協定単価」の賃金を、末端の下請け労働者まで支払うように文書を出して受託業者を指導すること。公共工事に従事する労働者の賃金を調査し把握すること。
  3. 委託労働者が人間らしく生活でき、公共サービスの質を確保する適正な価格で見積もること。
  4. 悪質な業者(最賃法・労基法違反、工事の手抜き等)は入札から排除する措置をとること。
  5. 入札においては最低制限価格を設定し、不当なダンピング入札を防止すること。
  6. 「働くルール」を委託労働者に保障し、公共サービスの質を守り高めることを受託業者を選定する際の評価基準に加える「政策入札」を導入すること。
  7. 政府・国会に対してILO94号条約を批准し、公契約法を制定するように働きかけること。
  8. 「公契約条例」について、自治労連の示すモデル条例案などをもとに、自治体として導入に向けて研究・検討すること。

5.実現する力は共同と組織化

 この政策は政府・財界のコスト削減戦略と真っ向から対立するものであり、容易に実現できるものではありません。入札・契約制度や指定管理者制度に「公正な労働基準」を確立させるためには、世論と運動を組織して地域の力関係を変えていかなければなりません。

 大阪では2002年に、大阪自治労連も参加して、公共・委託業務に関係する労組・業者団体が共同して「公契約法の実現をめざす懇談会」を結成し、国や大阪府、大阪市、府下市町村の議員や担当職員に対して、公契約条例制定や入札・契約制度の改善を申し入れ、懇談をすすめてきました。

昨年(2004年)より、大阪府議会や吹田市議会など府下いくつかの自治体議会でILO94号条約の批准を求める国に対する意見書が採択されるようになってきました。受注業者に「2省協定単価」をふまえた賃金を支給するように指導文書を発行する自治体も、大阪府、門真、寝屋川、守口、大阪狭山、泉佐野、阪南など各市に広がっています。公契約法制定や入札・契約制度の改善をはかる運動は少しずつですが着実に進んでいます。

 競争入札による委託業者の変更や指定管理者制度の導入による解雇を、労働組合の実力で食いとめる闘いもすすめています。大阪自治労連は2002年に、自治体の委託事業に働く労働者を対象に「一人でも入れる労働組合」として公務公共一般労働組合を結成しました。

この2年余の間に、吹田市の清掃工場の入札や、東大阪市の公立保育所や大東市の駐輪場の指定管理者制度導入などで労働者の雇用が脅かされる事態が起こりましたが、当該の労働者を労働組合に組織し、自治体当局や委託業者と交渉を進めてたたかう中で、吹田と大東では従業員全員の雇用を委託業者に引き継がせ、東大阪でも自治体当局から雇用を継続させる旨の回答を引き出しています。公契約運動や指定管理者制度のたたかいを前進させるためには、委託労働者を労働組合に組織していくことが不可欠です。

6.実現すれば、賃金の底上げ、地域振興に大きな威力を発揮する

 入札・委託契約や指定管理者制度に「公正な労働基準」を確立する取り組みは、次の点で大きな意義を持っています。

 第一は、委託事業に働く労働者の賃金・労働条件を改善することは、その地域の民間労働者の賃金・労働条件改善にも大きな影響力を発揮するということです。自治体は、労働者を直接雇用する場合はもちろん、民間業者に委託して労働者を働かせる場合においても、「公正な労働基準」を守る措置をとり、模範を地域に示すことが求められます。

 第二は、委託労働者が、仕事についての専門性、熟練性をもち、安心して公共サービスに専念できる賃金・労働条件を確保することが、住民の安全・利益を守ることにつながることです。
 第三は、委託労働者の賃金・雇用を安定することが、地域経済の活性化と自治体財政の再建につながるということです。自治体は目先の財政支出を削るために安上がりの委託をしようとしていますが、そのことが、中小業者の経営や労働者のくらしを疲弊させ、消費購買力を低下させ、自治体の税収減をまねいています。地域経済を衰退させる悪循環を、国や自治体の入札・契約制度や指定管理者制度の分野からも断ち切ることが求められています。

公契約運動は自治体の公共サービス業務に関わるすべての労働者、業者、住民、利用者が共同して、「自治体の公共サービスを守る」大きな運動に発展させる可能性をもっています。大阪自治労連としても、この運動を前進させ、地域経済の活性化をはかり、住みよいまち、自治体をつくるために、労働者、住民、業者が力を合わせて奮闘しましょう。以上の立場で、当面、大阪自治労連本部・地協・各単組で次の取り組みをすすめましょう。

  1. 「公契約法・条例」の内容やその意義について、職場・地域で学習会を開きましょう。
  2. 公共工事に従事する労働者、自治体の委託業務に従事する労働者の賃金、仕事、生活を明らかにするために、賃金実態調査や、訪問・対話を進めましょう。
  3. 地域、行政区単位で、市町村・自治体当局に対して、公共・委託事業に働く労働者の賃金・労働条件を改善させるよう要求しましょう。公共工事に従事する労働者には「2省協定単価」をふまえた賃金を支払うよう、文書による行政指導を求めましょう。
  4. 自治労連の「公契約モデル法・条例案」、「政策入札の政策提案」、ILO94号条約などをもとに、各自治体の公共工事・契約担当者との懇談を進めましょう。
  5. 政府に対してILO94号条約を批准し、公契約法を制定するよう首長からの働きかけ、自治体議会決議をあげるよう運動を進めましょう。
  6. 自治体の公共工事・委託事業に働く未組織労働者を労働組合に組織しましょう。 

以上

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