(3) 特徴と問題点
- ア 公務・公共サービスを民間に丸投げ【p5】
- 最近、しばしば「パブリックビジネス」という言葉が使われています。業界は、ビッグなビジネスチャンスととらえ、ソロバンをはじいています。
たとえば三菱総研は、指定管理者制度による潜在市場は10兆円だけども、市場化テストを実施すれば40兆円規模の市場がうまれる、と試算しています。合わせて50兆円ということです。
この三菱総研が、自治体のパブリック・プライベイト・パートナーシップ(PPP)導入についてのアンケート調査を行って、その結果をホームページに掲載しています。それによると、たとえば指定管理者となっているのはどこかということでは、もっとも多いのは財団法人などの公益団体で48.9%、これに対して株式会社等の民間企業は14.1%、NPOなどが2.6%という数字があがっています。もちろんこれは地域によってばらつきがありまして、県庁所在地だとか、政令指定都市では民間の割合が高いのですが、地方では低いようです。それにしても、公益団体が48.9%も取っているというのは財界にとってはがまんならないようです。ですからなんとしてもこれを打破したいということで、この市場化テストに並々ならぬ期待をかけているわけです。
国の場合は公共サービスと言えるものをほとんど全部丸投げするのに近いのですが、自治体の場合には、少なくとも法案では、まだ「特定公共サービス」にとどまっています。しかし、これは「当面は」ということに過ぎません。構造改革特区法のように作った先から次々と改定ということになるかもしれません。
- イ 財界・民間企業等のイニシアチブ【p6】はすごいです。
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- 公務部門の情報を徹底して開示
- 官は丸裸になれということです。これはあくまで民間企業が有利に競争入札に応じるためのものです。別に民主主義のためにということではありません。これに対して、民間企業については「企業秘密」というブラックボックスがあって、そこには国民は立ち入れません。
- 民間企業の意見のみを偏重
- さきほど市場化テストの中で基本方針を決めるときに民間企業からは多く意見を聴くけども、自治体からは意見を聞くのは一部だけという話をしましたが、国民一般の意見はまったく聞かない。住民の意見も聴かない。ましてや職員の意見も聞かない。労働組合の意見も聞かない。徹底して民間事業者の意見だけを偏重するシステムなのです。これはとんでもない制度だと思うのですが、それが堂々と法案に書かれています。
- 強力で不公正な「第三者機関」(官民競争入札等監理委員会)(37条〜)
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これが徹頭徹尾と言いますか、もうあらゆるステージにおいてチェックをかける。「官民競争入札等監理委員会」に審議してもらわないとなにもに進まないという仕組みになっています。
これは13名以内で構成されます。どんな人が委員に選ばれるかといいますと「公共サービスに関して優れた識見を有する」というのが条件です。かといって皆さん方が選ばれる可能性はありませんね。私も選んでもらえない。きっと人材ビジネス関係者が中心になります。任期が3年、再任可となっていますので、何年でも君臨できる。そして自分の出身企業やその関連部門について市場化を推進することもできる。
委員会の下には非常勤の専門委員がつきます。これも民間人です。
あと事務局が置かれる。事務局は公務員でしょうが、委員と専門委員は民間の企業の代表か、これに親和的な御用学者ということになるでしょうね。これが民間提案などをもとに、基本計画、実施要項、落札者の決定を審議し、契約変更・解除、監視とあらゆるステージに関与することになります。また、国の行政機関等に対する報告・資料徴収権(45条)、内閣総理大臣・国の行政機関等に対する勧告権(38条2項)も有するとされています。
このようにきわめて不公正です。
だいたいどういうメンバーが選ばれるかでその傾向は推して知るべしなんですが、一応、中立でなければいけないともされています。でも中立とは何かというところがとんでもない中身になっています【p22】。
- すなわち、中立的とは、「市場でできることは市場で行わせる、官業に対して民業の効率性との対比で費用効果を厳格に検証するという基本的な立場に立ち、それを特定の府省や民間事業者との関係でバイアスをかけることなく実際の法の運用にあてはめること」というのです。結局は、市場化推進という基本的立場に立つのが中立的ということになるわけです。これは日本語の乱用も甚だしいと思います。
「規制改革・民間開放推進会議」は、その前身である「総合規制改革会議」の時代に雇用流動化策を進めてきました。その議長であるオリックスの宮内さん自身、人材派遣会社をもっていますし、他にも人材ビジネス会社の代表者が何人も入っていました。「官民競争入札等監理委員会」もおそらく似たようなメンバーが予想されます。そうなると国の委員という立場を利用して自分のところに仕事を引っ張ってくるということもありうるわけです。なにせ落札まで関与しているわけですから、やりたい放題です。
- そして、法案にそうしたことの歯止めが見あたらない。委員の欠格事由くらいあっても良さそうなものですが、それもない。たとえば会社の取締役が自分の会社と取引をしたいというときには取締役会で承認をするのですが、その取締役には自分の利害関係に関わることですから議決権はありません。普通、利害関係がある人は意思決定から退くものです。裁判官でも自分の離婚事件を自分で裁判できるはずがありません。ところが、そういうことができてしまう仕組みになっている。自分のところが落札するためにごり押しをすることも禁じられていない。
自治体では条例で決めることができるので、こういうことにならないよう歯止めをかけることもできるでしょうが、ほっておくとこうした第三者機関が神様のように振るまい、あらゆるステージで主導権をにぎっていく可能性が高い。
- ウ すべての公務・公共サービス【p7】
- 国の場合は本当に「すべて」といって過言ではありません。これに対し、自治体では、少なくとも現段階では「特定公共サービス」のみです。しかし、これは際限なく拡大していくおそれがありますので、パンフレットでは「すべて」と表現しています。
- エ 自治体に事実上の強制【p9】
- 自治体が市場化テストをする・しないは、原則は自治体が自分で決められますが、さきほどご説明しましたように、「基本理念」を尊重する責務が課されています。しかし「基本理念」を尊重したら市場化テストに流れていく可能性があります。しかも市場化テストの導入を拒む自治体に対しては地方交付税等で国が圧力をかけてくることも予想される。ですから地方自治が死滅してしまう危険性があります。
- オ 地域経済を疲弊させ、談合・癒着の温床に【p11】
- 市場化テストで特定企業が落札しても、契約期間が決まっていますから、その企業がその業務を永遠に続けられるわけではない。仮にある自治体の窓口業務をある企業が全部かっさらっていったとしても、3年後には別の企業が落札してその企業が撤退することもあるわけです。
- ですから、そうした撤退にも十分堪えられる企業でなければ恐くて参加できないことになる。そうしますと有利になるのは当然、全国規模で展開している企業となります。昔、テーマパークの管理をしていた会社が、最近は不景気でテーマパークは流行りませんので、自治体の人材ビジネス会社にシフトして活動しています。
- そういった企業は全国各地に出先をもっていて、あらゆる自治体に進出したり撤退したりということを繰り返す。そんな中で生き残っていけば、ついには日本全国の中でシェアを大きく占めるということも考えられます。他方、自治体サイドとしても、いろんな企業が出たりはいったりすると面倒くさいということで、安心して丸なげできるところがいいということになれば、これに適合する基準でやることになるでしょう。そうなると、結局は全国規模で展開する一部の大企業に集中し、寡占化が加速されるということになる。そういう会社はだいたい東京に本社があります。
- したがって、大阪の住民の払った税金がこうした大企業が集中している東京に流れ、大阪には全然入ってこないということになるわけです。このように、力の強いところに集中し、いまとは違った形の談合・癒着が蔓延してくるのではないかと思います。
- カ 個人情報の漏洩のおそれ【p11】
- 最近警察などからどんどん情報が流出してとんでもないことになっているのはみなさん、報道でご存じのとおりです。これが企業任せになってしまいますといったいどんなことになるやらという危惧があります。
- キ 公務員の雇用破壊【p14】
- これまでの市場化ツールでは外郭団体がターゲットとされ、そこに働く労働者、多くは不安定雇用労働者が首を切られるというケースがほとんどでした。ところが市場化テストに敗れますと、そこで働いていた正規職員が、分限免職されるか、配置転換されるか、民間企業等に雇用されるか、3つのうちどれかということになります。
この点について、パンフに若林議員(自民)と村上担当大臣(当時)の問答が載っているのでご覧になってください【p15】。
そこでは、「働いている人にやめてもらわなきゃいけない」との質問に対し、「その点につきましては、若林議員のいわれる方向で一生懸命努力したい」と答えています。「どんどん分限免職やれ」「はい、わかりました」としかとれません。雇用を守るということは一言も言っていない。ただ「丁寧な説明をしていく」ということだけで、ほんとうに分限免職が多発するようになるのではないかと思います。
ちなみに日経新聞で最初に市場化テスト法案について報じられたときに「退職金を通算する」ことが大きく取り上げられました。これは国公労連の抵抗力を失わせるために政治的にそのように報じたのではないかと思っていますが、もちろんこれを過大に評価することはできません。
- ず、省庁間異動を促進する努力することと(48条)、任命権者の要請に応じて民間に移籍したあと再任用された場合に退職金を通算すること(31条)を定めています。任命権者の要請に応じて移籍し、その後、再任用されれば、という二重のハードルをクリアして初めて退職金が通算されるということです。しかし、戻る保障は全くない。再任用は権利ではありません。
現在も地方公務員職員派遣法という法律がありまして、その中に、営利企業に派遣される場合の退職型派遣というのがあります。これは戻るのが権利として保障されている派遣です。しかしながら、この市場化テスト法案にはこういった権利としての再任用は一切ない。
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また、以上は国の正規職員の話であって、非常勤職員については切り捨てられるだけでしょうし、自治体については何も規定はありません。地方自治だから各地でご自由にということでしょうか。もちろん、指定管理者についてはこの法律の対象外です。
以上が市場化テスト法案の中身です。 |