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「市場化テスト」 3−(2).市場化テストの仕組み [2006.4.22]

[UpDate:2006/4/22]

「市場化テスト」〜自治労連パンフ徹底理解

2006.3.24 弁護士 城塚健之

3 市場化テスト法

(2)市場化テストの仕組み【p20 Q3】

 ではどういう手順で市場化テストが行われるかという仕組みについて申し上げます。

ア 「基本方針」(国 7条)/「実施方針」(自治体 8条)
 国と自治体は、基本的にはよく似た仕組みです。
 国については、内閣総理大臣は、基本的プランとなる「基本方針」を作成するのですが、その際、以下の〜について、あらかじめ民間事業者の意見を聴くべきものとされています(ここに引用しているのは国についての7条の項・号ですが、自治体についての8条も基本は同じです)。

  • 市場化テストに関し、政府が講ずる措置(特定公共サービスの範囲の見直し、法令の制定改廃など)(1項3号)──要はそのためにどういう規制撤廃が必要かということを民間事業者から意見を聴けということです。「規制改革・民間開放推進会議」でやっているようなことを義務としてやれ、ということです。
  • 地方公共団体の取組を可能とする環境整備(規制撤廃)(4号)──これは、自治体がやる場合に、どんな法律をどのように変えて規制を撤廃していくかということです。
  • 市場化テストの対象となる公共サービスの範囲(5号、6号)──これはどこまでの範囲を市場化するかという問題です。自治体については、「特定公共サービス」をさらにどこまで広げるかということです。
  • 廃止する公共サービス内容(7号)
     「基本方針」にはこれ以外にも決めるべきものがありますが、このように一番根本的な部分について、あらかじめ民間事業者の意見を聴くことが義務とされているのです。
 このほか、自治体からも意見を聴きますが、これはの地方公共団体の取組を可能とする環境整備だけです。民間事業者からは様々な意見をいっぱい聴くが、自治体に聴くのはだけ。そしてこれは、市場化テストをやりたい自治体からの意見となります。市場化テストに際していったいどういう規制がじゃまになるかということを聴くものだからです。ですから、市場化テストをしたくない自治体の意見は聴かない。構造改革特区の仕組みを連想します。

 こうして意見を聴いた上で、「官民競争入札等監理委員会」の議を経て(5項)、「基本方針」が定められるのですが、この「官民競争入札等監理委員会」というのが一番の曲者です。これはいったいなにかと言いますと、おそらくいまの「規制改革・民間開放推進会議」と同じようなメンバーがでてくる。「規制改革・民間開放推進会議」にはオリックスの宮内義彦会長を始め財界の代表がずらり並んでいるのですが、たぶんこれと同じような人たちが任命されます。この「官民競争入札等監理委員会」が、国の「第三者機関」として、「私たちは中立です」みたいな顔をして、実は財界の利益をストレートに反映させた「基本方針」を決めていく。

 「官民競争入札等監理委員会」が登場するのは、ここだけではなく、市場化テストのありとあらゆるステージが関与してきます。しかもこの「基本方針」は毎年見直すということが条項に入っていますので、将来的に対象事業をどんどん拡大できる仕組みが組み込まれています。

 自治体が市場化テストをやる場合も基本的に同じで、ただこの場合には基本方針とよばずに「実施方針」と言いますが、中身はほとんどいっしょです。ただ、民間事業者の意見を聴くのはのみで(8条)、これは国が大枠を決めてしまうので、その範囲内でやるという趣旨です。

 また、自治体の場合には、「官民競争入札等監理委員会」ではなくて、審議会等の「合議制の機関」(47条)が担う、とされています。ですが中身はほとんどいっしょです。今でも市民の意見を聴くとかいって、保守的な弁護士とかを一本釣りして審議会などをつくって意見をいわせていますが、こういうものを「第三者機関」とするということです。
イ 実施要項(9条…これは国の官民競争入札についての規定であるが、民間競争入札について定める14条も基本的には同じ。ただし民間競争入札にははない)
 これは入札の具体的な中身を決めるもので、国も自治体も同じ「実施要項」という用語が使われています。そこで定められる主要なものを説明します

  • 確保されるべき「公共サービスの質」(1号)──質を落としませんということですが、中身はわかりません。
  • 実施期間(2号)──落札した企業にその事業を何年やらせるか、1年とか、3年とかを決めるもの。
  • 「入札に参加する者に必要な資格」(3号)──入札者の資格は決めますが、それは必要最小限にすべきというのが3項で定められています。
  • 落札の「評価の基準」(5号)──どういう項目でどういう点数をとるか、などという基準です。
  • 入札実施職員と入札参加職員との間の情報交換の遮断(6号)──これは、官と民が入札する場合には、入札を実施する部門と落札しようという部門とで癒着があっては困るということで、入札実施職員と入札参加職員との間の情報交換を遮断するとなっています。インサイダー入札は許さない、ということです。
  • 従来の実施状況に関する情報の開示(7号)──これまでその業務について行政がどれだけのお金をかけてどれだけの人数でやっていたかということを情報開示する。民間企業がそれをみて「うちならもっと人件費が削れる」などと判断して応募するということです。
  • 国の行政機関等の職員のうち、対象公共サービス従事者となることを希望する者に関する事項(9号)──民間が落札をする場合には、それまでその業務を行っていた行政部門は廃止になってしまう可能性があります。そうなると他の部署に異動するか、民間に移籍させるか、あるいは分限免職(民間でいう整理解雇)するかのどれかということになってくる。そして、民間に移籍させる場合、将来復帰がありうるのか、復帰させる場合にどのような条件を付けるかなどということをここで決める。これに対し、はじめから行政はもうしないと決めている民間競争入札(不戦敗型)の場合にはこれは決めません。

 以上は国についての定めですが、地方でも同じです。
 こういった実施要項が決まりますと次は競争入札ということになります。
ウ 競争入札
 官民競争入札の場合には、「官民競争入札等監理委員会」の議を経て(12条・15条)、落札者が決定されます。これに対し、民間競争入札の場合には「官民競争入札等監理委員会」は関与しません。ここから、「官民競争入札等監理委員会」の関与の目的が、官が(不当に?)落札しないようにチェックすることにあると分かります。何が何でも市場化が目的で、市場化さえすればあとは文句を言わないということです。
エ 落札企業との契約(20条)
 こうして入札して民間企業が落札すると、行政機関の長はその企業と契約することになります。

 契約の中身は公表されます。
 契約したあとで、その企業が不始末をしでかすこともあります。あるいは不都合なことが生じて、契約内容を変えなければいけない場面もあります。ですからそのような場合に備えて、国の行政機関の長は契約変更権を有すると定められています。ただし、この場合も「官民競争入札等監理委員会の議を経る」ことが必要とされています(21条)。

 また、不始末をしでかした劣悪な企業との契約は解除できる、となっていますが、善後策が必要ですので、この場合にもどういう企業に後を引き継がせるかなどということも含めて、「官民競争入札等監理委員会の議を経る」となっています(22条)。

 「議を経る」ということで、最終決定権は一応、国、行政機関の長がもっていることになっていますが、なかなかこれに逆らえないのは、現在の「経済財政諮問会議」や「規制改革・民間開放推進会議」の意見がほとんどフリーパスで国の政策に直結していることを見ればお分かりかと思います。

 このように、ほとんどあらゆるステージで「官民競争入札等監理委員会」が中身を支配するということになります。
 自治体も基本的には同じ仕組みになります。国と少し違うのは、国の場合、国会はまったく関与しないのに対して、自治体の場合には、契約をするときに議会の議決を要するとされていることです(34条3項)。

 そして、いざという場合には業務停止命令が出せる(34条6項)。これは、自治体ではかなりプライバシーにかかわるきわどい仕事を扱っていますので(「特定公共サービス」の中身を想起してください)、とんでもない業者であることがわかったときのためにこういう規制が入っているのかと思います。裏を返せば、とんでもない仕事を民間に請け負わせることが十分ありうるということです。

 民間の従業員は守秘義務を負い、罰則についてはみなし公務員とされていますので、守らない場合には処罰されることになります(25条)。ただ、最近は何かあるとすぐに罰則を強化してそれで安心であるかのような風潮がありますが、本当にこういう罰則だけで大丈夫かという問題があります。
オ 監督
 国の行政機関等の長は業者から報告を徴収したり、検査したり、質問したり(26条)、必要な指示をしたり(27条)などの権限が与えられています。これは指定管理者の場合と同じです。

 ところがこの場合、官民競争入札等監理委員会に通知する義務があるとされています。行政機関等があまりがんばって監督をきびしくすると、「官民競争入札監理委員会」にチェックされるという仕組みになっている。
 同じような仕組みが自治体についてもあります(28条)。
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