「市場化テスト」 6.どんな国・社会にするのかが問われている [2006.4.22]
[UpDate:2006/4/22] | |
「市場化テスト」〜自治労連パンフ徹底理解 |
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2006.3.24 弁護士 城塚健之 | |
6 どんな国・社会にするのかが問われている |
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こうして、人権保障が金次第という社会になり、「ワーキングプア」が広範な層になってきますと、格差社会化がどんどん進行していくことになります。これが「小さな政府」がもたらす「格差社会」です。そこでは、国民は、六本木ヒルズ族を中心とするごく一部の勝ち組と大多数の負け組に分裂していくことになります。 そういう中で、低い階層の中ではルンペン化も進行し、犯罪もふえていくことになります。もちろん、それだけだと社会が荒廃していきますから、これではいけないということで国民をもう一度まとめる必要がでてくる。「格差社会」でも当たり前なんですよ、これが日本ですよということを国民に受容させる必要が出てくる。そこで、国民統合の象徴として新しい憲法が必要となってくる。現在の改憲論議は9条だけではなく全面改憲がもくろまれていますが、これはこのような理由からです。これは最近の憲法学習会でいつも強調する論点です。 自民党の新憲法草案をみると、「地方自治」の部分が手厚くなっていることが分かります。これはまさに、イデオロギー的な目的で改憲を位置づけているからだと思います。 改憲阻止に「九条の会」が大きな役割を果たしております。この運動は9条を守るという1点で結集しているところですから、そこに別の団結の条件を持ち込むのは誤りでしょう。しかしながら、少なくとも私たちは、構造改革、新自由主義改革というものも改憲の主要な推進エンジンなんだということを意識して、ことあるごとに問題提起していくことが責務ではないかと思っています。 |
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7 対抗軸をどう作るのか |
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そこで対抗軸をどう作るかですが、これはいつも悩みながら話しています。全労連が「もう一つの日本」というものを掲げて運動を始めました。これを具体化していくということでしょうが、その全体像を描き出す力はありませんので、私が考えていることをいくつかお話ししたいと思います。(1)公務の市場化の弊害を明らかにするまず、私たちは、公務の市場化の問題について、そこにいろんな弊害が出ていることを徹底的に明らかにする必要があると思っています。耐震強度偽装問題がこれからどう動いていくのかわかりませんが、どうも関係者を処罰して、また処罰規定を重くして、それで終わりというような感じがします。これでは臭い物にふたで終わりです。阿部菜穂子さんという方が「イギリスで巻き起こる給食革命」(世界2005.11)というレポートを書かれています。これによりますと、イギリスの学校給食はサッチャーの時代に民営化され、質が非常に落ちたということです。メニューはフライドポテト、チキンナゲット、ハンバーガー。材料は冷凍食品や缶詰が多く、野菜、果物がほとんどない。これでは学校給食はファーストフードとほとんど変わらないとあります。特にショッキングなのは、七面鳥の加工食品には七面鳥の肉は36%しか入ってなくて、残りは脂肪、小麦粉や添加物だらけだとか、チキンナゲットをどうやってつくるかといえば、鳥の皮と骨を粉々にして小麦粉をまぜて油であげる、というのです。こういうものがイギリスの学校給食に出ているのです。ちなみに小学校の給食の材料費は75円で、刑務所の受刑者の昼食費の半分ということです。 また、学校の中にはスナック菓子の自動販売機があり、子どもの肥満がものすごく増えていて、「このままだと2020年までに児童の半分が肥満になり、その多くが両親より先に死亡する可能性がある」とイギリス下院の「健康に関する委員会」が警告を発した、とされています。 この記事を読んで私が思い起こしたのは「ファストフードが世界を食いつくす」という本です。これもなかなかすごい本です。アメリカはファストフード天国で、1人あたり年間210リットルの清涼飲料水を飲む国とあります。これは350ミリリットルの缶なら600本です。そして成人市場は停滞気味なので、より多くの清涼飲料水を子どもたちに飲ませることが販売目標達成の目標になるそうです。子どもたちはまだ味覚や嗜好が発達途上にあるから未来のいい顧客になる、とまでいわれているそうです。日本でもあまり変わらない状況になっているのかもしれません。また、こうしたファストフード店で働いているのはティーンエイジャーが中心。「人生経験の浅い若者なら管理もしやすい」と言われているそうです。 この本が出たときにはまだBSEの問題はそれほどクローズアップされてなくて、どちらかというとO-157の問題がいろいろと言われていた時期です。そのO-157を防ぐために何をするかといえば、放射線をあてるらしい。ほとんど文盲で英語がわからないような人たちが食肉処理場で働いていて、放射線の知識などはまったくといっていいほどなく、危険な作業を平気でやっているそうです。糞が混入しても放射線さえあてればよしと考えてもおかしくないと指摘されています。 あと、自動食肉再生システムというのがあって、骨から最後の肉片までそぎ落とす際に、脊髄、骨、軟骨などの破片が混ざり、これが挽肉にまぜられるというのです。これを読むと、挽肉が入っているハンバーガーなどはおよそ食べる気力を失います。 次に、博物館、図書館についての動きです。平山郁夫さんと高階秀爾さんが代表となり「効率性追求による文化芸術の衰退を危惧する」というアピールを出しました。高階さんは元国立西洋美術館長をされた方ですが、美術館のコレクションは100年単位で形成して評価は未来に問われるもので、「フランスの美術館が短期的評価だけで作品を集めていたら、今ごろゴッホもセザンヌも残っていない。」と指摘されています(2005.11.26日経新聞)。 こういうことから考えていきますと、市場化が人類にどんな弊害をもたらすのかが分かってきます。市場原理というのはもともと受給曲線が一致するところで価格が決定される、これだけを評価の基準とする考え方です。他には何も価値を持っていない。そして、すべてが時価主義、基本的にはそのとき限りの判断です。物事を短期的にしかみない。そこには人類の未来にとってどうかという発想がない。しかし、人間の営みというのはそんな薄っぺらなものではないと思うのです。 私はこうした市場化の弊害をひろく国民に告発していく「市場化黒書」作りが重要ではないかと思っています。 (2)「格差社会」への反撃「格差拡大」への反撃も重要です。毎日新聞は、「縦並び社会」というタイトルで、市場原理が蔓延する中で世の中にどんな出来事がおきているかを、いろんな角度からとりあげる力のこもった特集記事を出しています。朝日新聞がこれをおっかけるような特集記事を最近やっています。毎日新聞の年末年始の特集記事の見出しをみていくと、「ヒルズ族になれなかった男」、「派遣労働の闇」…といったテーマが並んでいます。 「眠りながら走れ」−これは長距離トラックの運転手がいかに過酷な労働実態かを告発する中身です。 「年金移民」−これは年金だけでは日本で暮らしていけないので仕方なく東南アジアに移住してそこで暮らすという高齢者の話。 「患者になれない」−これは国民健康保険料が納められなくて保険証がとりあげられ、資格証明書では病気になっても医者にかかれないという話。 「時給288円」−これは、ライブドアが中国で立ち上げたコールセンターに、日本では仕事がないからと日本の若者が中国に渡ってそこで日本の消費者からの電話苦情の応対をするのですが、時給は日本円にして288円しかないという話です。コールセンターというのは消費者から修理とか苦情などの電話があったときに応対するセンターです。昔は沖縄でよくやっていました。沖縄の賃金は一番安いからです。それがいまは中国でやっているようです。ちなみにアメリカの企業はインドでよくやっています。インドの人は英語が堪能ですから英語で質問してもすぐに答えられるからということだそうです。 ここで公務員のあり方に関連して指摘しておきたいのは国民健康保険証取り上げの問題です。資格証明書の発行数は地域差がありばらばらです。調査では全国で30万ほど発行されているそうですが、突出しているのは神奈川で、続いて福岡、大阪です。東京よりも大阪のほうが悪いのです。これに対して愛知は非常に少ない。大阪のなんと10分の1です。名古屋市の年金保険課の担当者は「資格証明書の交付は、行政が縁切り宣言するようなもの。市民との接触が途絶え、収納率はあがらない。」と言われています。資格証明書を発行するよりも、まずは住民の生活を把握し、場合によっては相談にのるという、こういう地道な活動こそ収納率をあげるいちばんの道なんだということです。こういった記事を読みますと、ほんとうに自治体や公務員のあり方について考えさせられます。 組合運動としてはこういう問題もとりあげていくことが必要だと思います。 (3)公契約運動民間企業のコスト削減が雇用劣化を前提とすることは先ほど述べたとおりですが、そうしたダンピングを許さないために、行政と契約した企業に働く労働者の賃金低下に歯止めをかけるためには、公契約運動を強化する必要があります。この点については、自治労連中執の熊谷守朗さんが「住民と自治」2006年4月号で書かれております。そこには大阪の久保さんの論文も紹介されていますのでどうぞ参考にしてください。ほかにもいくつかの視点があると思いますし、私も別の機会には別の項目をしゃべったりしていますが、要は、誰からか与えてくれるのを待つのではなく、それぞれの分野で知恵を絞って具体化していく必要があると思います。 それでは以上で私からのお話を終わらせていただきます。ご静聴、どうもありがとうございました。 |
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