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耐震偽装と建築行政のあり方を考えるシンポジウム (前) [2007.5.19]

>>耐震偽装と建築行政のあり方を考えるシンポジウム [UpDate:2007/5/19]

耐震偽装と建築行政のあり方を考えるシンポジウム(前)


  主催者あいさつ
  〜講演・アメリカの建築行政(インスペクション制度)に学ぶ
  〜耐震強度義損問題のその後

日時 2007年3月3日(土)
13時30分開会
開場 大阪市・OMMビル会議室

主催/シンポジウム実行委員会

主催者あいさつ 
宮内尚志氏(京都・構造計算書偽造問題を考える会)

主催者を代表しまして一言、ごあいさつを申し上げます。この間の耐震偽装と現在の建築行政の状況、実態は国民のみなさんにほんとうに大きな衝撃を与えたかと思います。もちろん、国民の皆さんだけではなく、わたし達、建築建設関係で働くものにとってもたいへん大きな衝撃でありました。そして例の姉歯建築士の耐震偽装だけではなかったということは、皆さんご承知の通りであります。

わたしは京都市職員労働組合の役員でありますが、京都市でも水落建築士による耐震偽装が明らかになりました。耐震偽装の背景には、1998年の確認検査の民間開放という政府がとってきている規制緩和路線があるというふうにも多くの方々が指摘されています。その当時も言われましたが、自治体の問題としても民間開放が進むことにより自治体職員の専門力量が低下するのではないか、ということが議論されました。現状に照らしてみてもその問題は顕著であると思います。

京都市におきましては構造審査だけではなく、確認検査をする機会が非常に少なくなり、2003年にはそれまでありました構造係というのが廃止されることになりました。そういう中で今回の事件を契機に、職場では昨年の5月から時間外に月1回ほど自主的な研修会を行い、若手、ベテランも含めて20人ぐらいが集まり構造審査の研さんに努めています。

今回のシンポジウムでは、1つにはいま進んでいる法改正、制度改正、これの評価と問題点を明らかにすること。そしてまたお集まりいただきました皆さん方、近畿の3都市の確認検査の民間開放の状況の下で何が起こっているのか、ということを明らかにすること。そしてまた皆さん方の積極的な取り組みの交流をしていただく。そういうことを通じて、これからの建築の安全性を確保するために何が必要とされているのかを明らかにしたい。

そういう目的で今回のシンポジウムを開催させていただきました。内容は講演、ビデオ出演、あるいはシンポジウムということでたいへん盛りだくさんではありますが、きょうお集まりいただきましたみなさん方の最後までのご協力で、このシンポジウムが成功裡に終わりますようお願いいたしまして、簡単ではございますが主催者を代表してのごあいさつにさせていただきます。

講演
 アメリカの建築行政(インスペクション制度)に学ぶ
     欠陥住宅被害全国連絡協議会幹事長
         弁護士 吉岡 和弘氏

第1 アメリカ(主にカリフォルニア)の住宅検査制度について

1 建築基準

(1) モデル基準

Uniform Building Code(U.B.C) 全米建築主事会議が作成
The BOCA National Building Code(BOCA) アメリカ建築主事協議会が作成
Standard Building Code (S.B.C)
I.C.C(international code)council)

 従来、アメリカの建築基準はモデル基準として〜がありました。アメリカの基準は法律ではなく、自主的な約款のような制度になっています。東海岸、西海岸、南部と広いために、それぞれが基準を設けていましたが、2000年にI.C.C(国際建築基準協会)がないしを統合し今日に至っています。また約款をつくるにあたってはアメリカ建築主事が中心になっています。

(2)ビルディングコード──I.C.Cのモデル基準をもとに各自治体が地域的特性を加味して独自の基準を設けています。私たちが見てきたロサンゼルスでも、ビルディングコードを使っています。

(3)建築規制の手法は3つあります。1つは原子力発電所等の建物には連邦が管轄します。2つ目に学校・病院等は州が管轄しています。3つ目として商業建築物・一般住宅については市が管轄しています。一般住宅以上に学校・病院についてはより厳しい基準を用いることになっています。

2 建築行政の流れ

 建物の完成までの流れについてですが、プランチェック申請→市からの許可→施工開始→インスペクターによる中間検査→施工完了→市の検査→入居許可証の発行→建物の使用許諾という流れになっています。このうち、インスペクターによる検査が充実しているというところがきょうお話しするポイントです。また入居許可証の発行というのがあり、インスペクターが最終検査したうえで入居許可証を発行しない限りは建物が使用できない。日本は完了検査も受けないでカギを引き渡さされば電気もついているという状況で入居ができる。ここが日本と違うところです。

3 プランチェック

 申請から許可までの期間は建物規模によって異なり数週間〜数ヶ月を要する。ただロス市建築安全局にはワンストップ許可発行センターが置かれ、約20名のプランチェッカーが1日で処理する制度もあります。年間数万件の申請件数の約85%が同センターで処理されている点が注目すべきところです。

4 インスペクション

(1) インスペクター

 通常のインスペクション──これは一般の住宅について行うものですが、これは市の職員であるインスペクターが検査します。
 大型建物等については、指定された工事工程に必要とされるスペシャルインスペクションを行います。このスペシャルインスペクターはデピュティインスペクターとも呼ばれています。あくまでもインスペクションの基本は市が行う検査であり、市からその権限を与えられた人だという意味です。

(2) インスペクターによるインスペクションの方法

 具体的な方法としてインスペクションレコードカード(検査記録カード)に沿って検査を行います。だいたい戸建ての場合には6〜8段階に分かれて検査をします。

 各段階の工事が終了するたびに施工業者が市の安全局に電話をかけると市のインスペクターが24時間以内に現場に赴き工事内容を検査し、そこで問題がなければ次の工程に移れます。もし問題があれば「STOP WORK NOTICE」という赤紙を貼られ、改善箇所を指示します。このインスペクションをパスしない限り次の段階に工事は進行できません。こういうことを6〜8回行います。

(3) スペシャルインスペクターによるインスペクション

 コンクリートの打設工事、溶接等、現場で継続的な監視が必要な工事工程について、インスペクターが工事現場に常駐し、検査・監視していくという仕組みになっています。コンクリートの打設工事、試験資料の採取、補強用鉄筋、プレストレス用緊張鋼材の工事、溶接工事、構造組積工事、吹付防火(耐火被膜)工事等、要するに現場に常駐していなければその工事が正しくおこなわれているのかどうかわからないような工程については現場に張り付いて監視する。私たちを案内してくれたアメリカのエンジニアが強調していたのは、法律が現場常駐を決めているから現場にいるというのではなく、コンクリートの打設にしろ、溶接にしろ、正しい検査をしようと思えば現場にいなければならないはずだ。だから工事現場に常駐するということは当然のことなんだということを強調しておられました。

 スペシャルインスペクターは建築主が費用を支払い、依頼された建築主に対して責任を負う仕組みとなっています。シティのインスペクターを通じて市がスペシャルインスペクターの業務を監督している。彼らがミスをしたり悪いことをしたりすると、市が資格剥奪の権限をもっています。

(4)州のインスペクションについて

 州のインスペクションは市の基準よりもより厳しい基準をもって臨んでいます。私たちが州部であるサクラメントを訪ねたときに、女性のインスペクターの方が「ロングビーチ地震の後、1933年フィールド法で学校、病院等の建築が特に重視されるようになった。ノースリッジの地震の際、私の息子は学校に行っていたが、私がいるこの建物が大丈夫な以上は、息子のいる学校はもっと大丈夫であるのに決まっているから安心していられた」ということを言われたのが非常に印象的でした。

(5)インスペクターの人数等について

 ロス市の人口は355万人、ロス郡の人口は950万人。同市建築安全局職員は850名、うち450名がインスペクター、175名がエンジニア、20名前後のプランチェッカーがいます。スペシャルインスペクターは1000〜1200名ぐらい登録しています。ロス市内でインスペクションの専門会社が20〜40社もあるということです。
 州都サクラメント市の建築安全局職員は40名、うちインスペクターは14名。日本の各自治体との職員数を比較すれば明かですが、建物の安全のための人的配置が格段に異なっています。


第2 わが国の建築生産システムの再構築にむけて


1.今回の耐震偽装の再発防止の決定打は「行政」が「現場で見張る」ことだと考えています。

・ロス市建築安全局での聴き取り

 民間開放というのはアメリカが一番得意とするところではないか?。そのアメリカでなぜ建物については民間開放しないのか?。私たちは何回か視察に行っていますが、今回、行った調査の一番の目的はここのところにあったわけです。

 なぜアメリカでは民間開放しないのか──という質問についてロス安全局の方々から、「チェックアンドバランスが重要だ」という指摘を繰り返し受けました。彼らは「私たち市の職員が市民のいのちを守るんだ」という誇りをもって仕事をしていました。

2.ここでスライドを見てもらいます。

  • 正面に立っているのはロサンゼルスの建築安全局の局長さんで、左側にお歴々が並んでいただいています。この右側手前の方がトム・カメイさんという南カリフォルニアエンジニア協会の会長さんをやられた方です。この方のお陰でわれわれの視察に対して錚々たるメンバーが立ち会っていただきました。
  • スライド──これがワンストップ許可発行センターの内部です。1日で処理する場所です。ここに受付があります。
  • スライド──「あなたは何番の○○へ行って下さい」と案内される。そこでは担当者と膝をつき合わせてその場で図面をみて面談するという仕組みになっています。
  • 最後、ここで会計を払う。
  • いまどういう仕事をしているか、待っている方に対して「次はどれぐらいですよ」という情報が刻々と伝えられています。
  • このようにその場で質問をしながら図面をチェックしています。
  • 機械に関するプランについてもチェックされている。
  • 左側に順番を待っている人がこういうふうに座っています。
  • これは建築現場のコンクリートの打設工事を行っているところです。
  • これが基礎部分のところです。基礎から柱に立ち上げるところです。
  • この右側の方が市のインスペクターです。ヘルメットには建築安全局のマークがついています。
  • インスペクターは赤いチョッキを着ています。このチョッキの背中にはこのようにロサンゼルス建築安全局のマークがある赤いチョッキを着ています。
  • 後ろのほうに作業員が写っていますが、いまコンクリートの打設工事をしています。
  • 右側に立っているこの人がインスペクターで、このように現場でもコンクリート打設工事を注視している。このようにずっと張り付いていろんな角度から現場で工事をみています。そして注意を与えています。このようにずっとコンクリート打設工事の間、チェックしているわけです。これではなかなか手抜きしようにも手抜きができません。
  • これは何をしているかというと、指を指している先のほうにパイプが8本ほど出ています。「パイプが飛び出てくることを予定しない鉄筋の配置になっていたのを見つけたので、そこにもっと鉄筋を増やせと私が指示したんだ」と自慢げに語っています。
  • これはコンクリートの強度の試験のサンプルですが、これも市のインスペクターがとる。これを持ち帰って強度を検査します。
  • これはスーパーマーケットを建築している現場に常駐しているスペシャルインスペクターの方で、民間の検査員です。スーパーですので、1階部分になるべく柱を立てないようにするためにワイヤーを入れて、2階部分、1階の天井部分、2階の床部分をワイヤーで吊っている。ワイヤーを張って1階に広い空間をつくるという手法です。
  • 白く写っているワイヤーが、黒い部分までワイヤーで引っぱる。どれだけ引っぱったかという強度試験をスペシャルインスペクターの方がやっているところです。
  • 現場にはスペシャルインスペクターが常駐する事務所が独自に用意されています。
  • もし問題の箇所があるときには「○〇にどういう問題があるから直せ」ということを赤紙に書いて現場に貼り付ける。その後はこの点をクリアしないと先に進めない。
  • これは民間の検査会社です。創立100年の会社です。150人ぐらい検査員がいるとのことでした。一番右側の方が社長で、隣が専務、その後はインスペクターの方々です。こういう方々に、「ロサンゼルスの建築安全局がどうなのか」という質問をしました。

・チェックアンドバランスについて

 「なぜアメリカでは民間開放をしないのか?」という質問をロス市の建築安全局で聴き取りした際、に、チェックアンドバランスという言葉が何度も出て来ました。

 チェックアンドバランスという言葉を日本でどういう訳したらいいのかということですが、憲法では三権分立、国王が1人が権限をもっているとどうしょうもないことをやるので、司法と行政と立法(国)の三権に分けた。これをチェックアンドバランスと呼び、抑制と均衡というふうに訳されています。このロス市の建築安全局の方々が言っているチェックアンドバランスというのは、物事をある人や機関に任せきりにしてせず、必ずその人をチェックする人と機関を用意するとの意味で使われているようです。インスペクターは工事現場におけるチェックアンドバランスの制度だ。このチェックアンドバランスがなければだめなんだということです。

 そのチェックアンドバランスは行政が行います。それは公平な立場でできるからで、行政の厳然たる後ろ盾があってこそ、人の命は守られるのです。命はかけがえのないものです。建物の安全を確保する重要な柱は何本かあります。いい基準、いいデザイン、いい材料、いい施工をすることは大事ですけれども、なによりも大切なのはプランチェック、インスペクションをしっかりやることです。それは行政の範疇です。ロス市では「民間には任せない」ということを言い切っています。

 アメリカでも民間開放については1980年代に、ライセンスをもった者が設計したものを市がなぜチェックする必要があるのかという議論がおきたそうです。しかし、「確認を民間に任せてはならない」としています。「民間は利益とかとか経営を考えるので公平ではない。急に仕事が増えた場合は民間に外注するがあくまでも市がコントロールする。

民間にやらせる場合でも市がコントロールする。デザイナーと隔離し交渉させ、市が支配権を持つ。民間には優秀な者もいるが悪い者もいるので行政が見定める必要がある。民間では複雑な人間関係もある。『あの人に恩がある』と、また仕事もらう余地もある。民間は仕事をとりたいから無理をする。善良な市民でもチャンスがあれば悪いことをすることもある。そうさせないシステムをつくらなければいけない」ということです。

・配置転換や業者からの圧力はかからないのか?という質問について。

 日本では建築行政に関わる方は、業者から圧力をかけられたりして困っている、そのへんはどうなのかという質問しました。

 この質問に対しては「ロスでも同じような圧力を受けることもしばしばである。また、10年前、『市は敵だ』という印象をもたれていた。しかし、私(安全局長)は9年前に着任し、私たち公共の人間は、これまでの敵対的対応から協調的態度に変え、私たちはPRに努力した。局長自身がいろんなところに出かけて行って市の人命尊重のためにイメージのレベルアップに努めた。でも人命・安全に関しては絶対に譲らないということをPRした。

私たちが市民の生命を守るのだということをPRし、それを市民が理解してくれて、今では協調的になり、仲良く理解しあって信頼されるようになった。改善の手法はHPで公開している。身分保障という点でも終身雇用だ。建築技術の能力は民間よりシティの方が上になるよう継続的教育をやかましく言い、一定の点数を獲得しなければならないシステムになっている。また、民間での経験を持った新人を積極的に加入させることで実務についていくようバージョンアップしている」ということでした。

3.ICCからの聞き取り

 1994年にI.C.C(建設基準協会)を設立し、2000年にビルディングコードをつくったアメリカの建築基準をつくっている協会です。会員が約4万人いて、建築事務所やデベロッパーなどもいるそうです。職員は350人、ロス市のI.C.Cは120人の職員がいるということですが、これがその建物です。I.C.Cがまとめた基準をここで販売しています。

 建築基準協会ではいろんな質問をしましたが、I.C.Cに対しては「自分たちがやったことが問題があるかもしれないもっと見てほしい」という要請が強いということを自信をもっていっていました。「インスペクターを民間開放することについてどう考えるのか」と聞いたところ、「アメリカでは行政はインスペクションによって市民の財産を守ってくれる。これは自分たちの市民の保険である」ということを信念もって強調していました。「仮に検査を民間に委託することがあっても、行政がコントロールする権限をもっているのだ」ということです。「日本のような丸投げは信じられない」と言っていました。また10人の優秀なエンジニアがいなくても、1人の優秀なエンジニアで監視することができるのではないかということです。

4.アメリカのエンジニアからの聴き取り

 アメリカのエンジニアから聴き取りの内容は次のとおりです。
 10年前に改革がありました。改革前のロサンゼルス市安全局の姿勢は実に高圧的で、市民の側の立場を理解しようとするよりも、一方的に規則を押しつけようとする態度が見られ、まだ対応には何十分、何時間も待たせられるのが普通でした。以前は狭くて待ち合わせ場所なく立ったまま対応していました。フレンディではなかったのです。不満は多かったです。押しつけの態度がありました。環境もよくありませんでした。プランチェックの時間も5割は6週間、場合によっては10週間待たせました。何度も足を運ばせました。予約なしでの面談は考えられなかったのです。

 改革後は、局員と市民が対等に話せるようテーブルを囲んで一体一のリラックスした環境をつくり、数分以内に何らかの対応が受けられるよう細心の注意を払うなど目をみはるほどの変化がありました。PRの面でも、トップが事あるごとに市民の集会に出かけて局の新しい方針に対する理解を求め、市民の財産、生命を守り、市民の貴重な時間を無駄にしないための努力を続けている事実を印象づけました。親切になりました。待たせない、二度足踏ませない、待ち時間短くなり数分しか待たされないようになったのです。

 アメリカでは、公共の安全、健康、福祉を守ることは責任あるものの当然の義務とされています。建築士や構造エンジニアにも医師や弁護士と同様プロフェショナル(専門職)と呼ばれ、豊富な知識、経験を身に付けて市民の権利を守ることが求められ、公益をいつも視野にいれながら活動する職域と位置づけされ、アメリカのエンジニア職が守らなければいけない倫理的な仕組みがつくれらています。

5.住宅検査官(員)制度の創設を

日弁連では住宅検査官制度の創設をいっていますが、アメリカのインスペクション制度に倣うもので、その費用は施主が負担し、重要工程にはインスペクターを現場常駐させ、建築主事の手足として安全性をチェックする。建築主事は民間のインスペクター(検査官・員)の任せきりにせず業務をチェックする仕組みを制度として創設する必要があるのではないか。そういうことをいうと、いまの民間開放のながれ、小さな政府などというなかで夢物語ではないかという批判も受けます。

 しかし、中国ではアメリカのインスペクション制度が取り入れられていると聞きます。また私たちがっているこの制度も、発注者が常駐する検査員の費用を出すわけで、10人の優秀なエンジニアがいなくても、1人の優秀なエンジニアが10人の人をチェックしていけばいい。そういうシステムで行政の方々が民間の力を利用しながらやっていくということであれば、そう難しいものではないのではないか。姉歯さんのような人もいるけども、全国各地には優秀でまじめに一生懸命に建物の安全を確保するために尽力されている建築士の方が多数いらっしゃいます。そういった各地の建築主事の方々を、行政が自分たちの手足として取り入れ、そしてそれをチェックしていくということは不可能なことではないと思っています。

 最後に、アメリカのこういう制度を見てきて言えるのは、結局、住民が行政にどれだけの信頼を抱いているのかということではないかと思います。JRように、国鉄を分割民営化して、サービスがよくなったという国民と、安全性がおかしくなって大きな事故がおきたのではないかという話とよく似ていて、住民たちが今回の民間開放がよかったというふうに感じるのか、それとも行政が自分たちの命を守っているくれる存在なんだという支持をもらえるか、アメリカでは行政が支持を勝ち得ていることを見てきたわけです。わが国でもそういう努力が必要なのではないかと思います。



司会

 どうもありがとうございました。吉岡弁護士にはこのあとのシンポジウムでも改めてシンポジストとして登壇いただきます。このときにみなさんからのご質問にお答えいただきます。

続きまして、今回の耐震偽装問題の被害となられた住民からの訴えということでビデオ出演をしていただきます。本日のシンポジウムのためにご協力をいただきましたグランドステージ川崎大師の住民代表、平貢秀さんがインタビューの映像が届いていますのでそちらをご覧いただきたいと思います。


耐震強度義損問題のその後
発端となった「グランドステージ川崎大師」
    住民代表 平 貢秀さん(ビデオ出演)

1.耐震強度偽装は国が作った制度災害

 この問題は、国が作った制度災害であると考えています。原因は2点あります。

1点目は国土交通省が作った建築確認制度自身があまりにも不備なものであったということです。構造計算の結果、耐震強度が1あるかないかという、そこの数字しか見ないという建築確認制度です。素人でもできるわけです。そういう事実を知らせず、国民を欺いていたと思います。そして、これだけ大きな問題であるにもかかわらず、だれでも改ざんできるソフトを認定していたことです。

もう1点は大手ゼネコンを頂点とした建築業界の無責任な体質が温床としてあったのではないかという点です。12月初旬に国交省から支援の骨子が出されましたが、これを見たときに「これはもうダメだな」と思いましたね。支援という言葉で賠償という本質の問題をすり替えたことから考えて、国は自分の責任をまったくとろうとしていないこと。

また「一例としてUR(独立行政法人都市再生機構)を使った建替」といったかたちで出されてきましたので、通常、行政が「一例として」といった言い方をするのは、「これ一つしかありません、他のことは聞きませんよ」ということです。ですから「この一例では問題は解決しないな」と感じました。

2.なぜ建て替えるのか

 なぜ建て替えるのかということですが、これはお金がないから建て替えるわけです。このところが一般の人たちには理解されていません。いまの状態で土地代だけをもらいマンションを出ていくとなると、住むところもなくてまるまる負債だけが残ります。ですから無理をしてでも追加ローンを組んで建て替えて売った方が負債が大きく減るわけです。それ故お金のない人にとっては二重ローンを組んででも建て替えて売るしかないのです。住民全員が「同感だ」ということもあり、最終的にその方向で動いています。ただそのなかでも阪神大震災等の場合は住宅金融公庫の災害復興融資2%が使えたわけです。

しかし、私たちの場合は災害に限りなく近いが災害ではない。ですから災害復興融資は使わせてもらえません。いまの金利は結構高いですから総支払い額で数千万円という差が出てきます。だけどいまは建て替えるしかありませんから各世帯が建物だけに2500万円から3500万円の追加ローンの融資手続きをとっています。

3.マスコミに報じられていない問題

 マスコミにまったく報じられていない問題からお話しします。ヒューザーが破産して破産管財人が被害住民のためにということで配当原資をかき集めたわけです。結果、私たちに配当としてお金がきました。平均650万円程度です。この金額は実際の損失の約10分の1程度です。ありがたかったのですが、650万円が配当として渡されることが分かった時点で国土交通省は補助金を減額、あるいは補助金は出すけれども配当に応じて返してくださいということになりました。この金額が約500万円です。650万円もらって500万円を国に返すことになります。

破産管財人は結果として国に対してお金を渡すために頑張ったことになってしまったわけです。通常耐震偽装問題の人でなくても、だれでもが受けられる補助金に対しても返還を要求してくるのです。

例えば優良建築物等整備事業制度、21世紀緊急促進住宅事業制度を使ってその要件を満たすように建設した場合、共有部分の建設費の何%というかたちで補助金が出ますが、これは耐震偽装問題の人でなくてもみんなが使っています。ここの部分の補助金も返還要求されます。他の人たちがこれと同じ補助金を使いデベロッパーが建物を造ったり、個人が建てた家に対して後からその補助金を返せということは聞いたことがありません。

また阪神大震災のときにさまざまな制度の中で補助金や支援がなされていますが、これもすぐに返せとは言われませんでした。国は支援という言葉に置き換えていますが、蓋を開けてみると支援ではなくて融資だったわけです。こういうことが罷り通る世の中、政治でいいのかなという疑問は強くあります。

4.建築士、施工業者等々に言いたいこと

 下請で働いている人たちは工事実態をみているわけですから、中には「これはおかしいなぁ?」と感じていた人もきっとおられたと思います。元請のゼネコンにそれを言えば「そういうことを言うのだったらおまえのところには仕事を出さないぞ」と言われる。そういうことを元請から言われたらすぐ訴えられる機関や公表できるようなシステムがあって、実際につくっている人から「おかしい」という声がどんどん出れば、偽装がわかるわけです。そういうふうな仕組みをつくることが1つのチェックとなるのではないかと思います。

 ゼネコンは資金的にも体力があります。実際の建設では施工図面を書いて打ち合わせをくりかえすわけですから、現場に対して厳しくチェック機能を持たせないといけないのかなと思います。そうすれば図面も構造計算書も正しい、ですが手抜き工事だということは消えるのではないでしょうか。建築基準法に合致しない建物を造った場合にいまの法律のなかでは、全く責任のないマンションを買った人たちが自分たちのお金で壊しなさいという命令がくるわけです。本来責任を取るべきの建設にかかわった行為者にはこないのです。実際に不法行為を行った人と責任を取る人が一致していない法律です。一致させるためにも建設会社に対してかなり厳しい方向で変えていくべきだと考えています。

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