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[建築行政] 建築確認検査の民間開放は、何をもたらしたのか? 〜耐震強度偽造問題から見えてきたもの〜

>>自治体職場からの告発レポート

[UpDate:2006/5/13]

[建築行政]
   建築確認検査の民間開放は、何をもたらしたのか?
     〜耐震強度偽造問題から見えてきたもの〜  

2005年11月17日国土交通省より、指定確認検査機関(以下「指定機関」)において構造計算書の偽装を見抜けずに建築確認や検査がおりているとの報道発表がされ、全国の建築行政に激震が走りました。また、偽装は一部の建築士にとどまらず全国的な広がりをも見せています。

偽装は指定機関だけでなく多くの特定行政庁(建築主事をおく自治体)においても見抜けなかったことから、建築確認検査制度そのものの信用が大きく失墜する事態となっています。たしかに形式的な書類審査の方法や審査する者の能力にも問題があったのかもしれませんが、構造計算プログラムで再計算しなければ見抜けない偽装も存在していることから、現行制度での対応に限界があるのも事実です。

この問題に関わりクローズアップされたのが建築確認検査の民間開放です。問題の全てが民間開放にあるとは単純には言えませんが、かなり関係性が深いのも事実です。

● 法改正の経過と背景

1995年1月17日、被災建築物約44万棟、死者約6400名と戦後最大規模の被害が発生した阪神・淡路大震災を契機として地域での防災性の確保の必要性が改めてては、安全性を中心とする建築物の質の確保や適切な維持保全を図るため、建築規制の実効性を確保することが強く求められ、中間検査制度(注)を導入する建築基準法の改正が行われました。

同時に建築確認や検査等の充実・効率化にあたり、行政の十分な実施体制が確保できない状況(注)から官民の役割分担の見直しにより的確で効率的な執行体制の創出が必要として、建築確認業務の民間開放がされました。

● 民間開放の現状 全国でも特に多い府内の民間検査

2005年11月現在、全国で建築確認業務を行っている指定機関は123機関にのぼり、建築確認業務の実に半数を担っています。(図1、2)

このようななかで、急激に指定機関による建築確認業務が拡大してきたのが大阪です。現在、大阪府内で建築確認業務を行っている指定機関は約30機関にのぼり、府内の建築確認件数の8割強を占める事態となっています(図3)。特定行政庁によっては、建築確認件数が1割をきっているところもでてきており、特定行政庁での建築確認業務が激減していることがよくわかります。

なぜ大阪府内における指定機関がこれほどまでに急激な拡大をし、過当競争状態になっているのでしょうか。それには主に2つの理由が考えられます。第一に、大阪府内では、民間開放の法改正をうけ、指定機関の経営が可能となるように、府内全体で建築確認業務にかかる手数料を大幅に改定し、民間機関が参入できる環境を行政自らが作り出した経過があります。そして第二に、確認申請に関わる行政との諸手続きを円滑に行なえる制度をつくり、指定機関の調査業務の負担軽減をはかったことも起因していると思われます。

● 指定確認検査機関(制度)の問題

「指定確認検査機関」は、国土交通大臣または都道府県知事の指定をうけ、管轄区域内の対象規模物件の建築確認業務を行うとされています。指定の条件には、建築主事(注)をおく特定行政庁と同等の建築確認業務を行う能力を有し、かつ公正中立な業務ができることなどです。

このことにより、従来、管轄する特定行政庁のみでしか行えなかった建築確認業務を他の地域にある指定機関でも行えることになりました。極端な例で言うと大阪の物件を北海道で処理しても問題ないということです。

民間開放の効果のひとつに「建築主のニーズに即した建築確認・検査サービスの提供が可能」というものがあります。たしかに、特定行政庁のみで建築確認業務が行われていたときには「時間がかかる」「対応が不親切」といった行政対応への不満やどこにも明文化されていない「ルール」や「内規」で指導される。」「設計者の意図や設計思想を聞いてくれない。」「審査する行政によって見解が違う。」などという審査の中身にかかわる不満があるとされていました。これらが民間開放によって、一律の基準で迅速な処理がされるということです。

大阪府内では指定機関がひしめきあっていることから、必然的に競争原理が働き建築確認業務のスピード化が求められることになっています。このスピード化は申請者側の利益になる一方で処理件数を増やす指定機関の利益につながるという側面をもっています。

しかし問題は、求められているニーズは誰のニーズかということです。一般的に確認申請(審査)や検査の手続きを行っているのは建築業者(設計事務所や不動産業者など)です。法制度上は建築主が行うことになっていますが、委任をうけた建築業者が行っているのが実態です。実際にその建築物を所有もしくは居住する、いわゆるエンドユーザー(実際に建築物を使用する人)にとって、人生のうち数回とない申請の際に審査や検査する機関を選択する判断材料というものは皆無といっても過言ではありません。つまり、指定機関を選択する際には、建築業者の意向が非常に影響する関係にあります。そうなると、指定機関と建築業者の関係は、サービスの提供者(売り手)とお客(買い手)となり、指定機関のサービス内容いかんによっては次の仕事につながるか否かが問われることにもなります。

ある指定機関からは「今までは構造審査について厳しく指摘してきたが、厳しくない他の民間機関に流れる傾向にあることから、まじめに審査すれば仕事が減るので経営的にも考えもの」ということもいわれています。もちろん適正に業務を行っているところが大半でしょうが、エンドユーザーの利益よりも建築業者側の利益に直結する「早く」「甘い」審査・検査が指定機関の選択基準となることも考えられ、利潤動機によってはそれに対応する指定機関がでてくるのは必然ではないでしょうか。

競争原理が激しい市場においては、厳しい検査を行えば次回から申請されないことも当然考えられます。実際には5分で終わる検査もあるとも言われているなかで、建築業者ではなくエンドユーザー側にたった法律の適正な解釈と厳正な運用が行える状況にあるのかが問題となってきます。

もちろん行政による事後監視が行われるしくみにはなっていますが、これは行政が指定機関よりも高い専門性をもつことによって発揮されるものであり、現実には行政内部の専門性の維持が困難な状況も生まれてきています。

また、昨年6月の最高裁決定では、指定機関が行った建築確認に問題があった場合、最終的には所管する特定行政庁にその責任があり、国家賠償の対象にもなるとされており、特定行政庁からは国に対して「実質的な権限がないのに責任だけとらされる」との不満や立法上の不備も指摘されているところです。

今後、行政が「事後チェック」の責任を果たしていくとすれば、「民間にできることは民間に」(小さな政府論)の方向のままで、これらの責任が能力的、制度的に果たせるかどうかを真剣に考える必要があります。

● 行政内部に起こっている問題 〜建築行政の執行体制は弱体化〜

建築確認業務が指定機関に急激に流れる状況から、行政内部でのスキル(審査・検査等を行う技術能力や判断能力)の低下が懸念されだしています。なぜスキルの低下をまねくかというと、従来、審査業務を通じて法解釈の技術(知識)習得が行われ、検査業務(現場)を通じて法の実用的運用をはかる多くの情報を得てきていたためです。つまり、長年にわたり行政内部で「審査する目」や「検査する目」といったスキルを養ってきていたものが、急激な民間開放により、これらの機会を奪われ、その能力も低下傾向になっているのです。

今のところ過去の蓄積もあり行政の方が高い専門性を維持していると思われますが、数年後には指定機関と逆転することが予想されます。今後、指定機関に対する指導監督や、建築基準法による許可や違反指導の業務に支障が生じることも考えらます。

また、これまで検査を通じて民間施工の実態や問題点を知ることが可能であったものが、困難となり、現場を知らない状況で政策判断などの行政運営を行うことにもなりかねません。

● 建築行政と不可分一体の建築確認業務

建築確認業務を行政から分離し、民間機関に行なわせることは、前述した問題点が解決されるような厳しい法的統制を行えば理論上は可能かもしれません。しかし、それは建築確認業務が「民間でもできる」ということだけであって、行政の総合性からいえば問題は残ると言わざるを得ません。

これまでの建築行政は、建築確認業務を他の業務(許可や違反指導など)と不可分一体のものとして執行してきています。これは、それぞれの業務を形式的に運用するのではなく、相互に連携しあいながら地域の実情に応じた建築行政をすすめてきたからです。

そして、執行体制が不可分一体性をもつということは、その組織内にある職員も、その執行体制のなかで育成し、組織としてのスキルを養ってきたわけです。

以上のような関係にあるものを安易に切り離すことは、相互連携のなかで保たれていたスキルが継続できないことにつながり、他の業務や建築行政全体の水準低下をおこすことが懸念されるところです。

● 行政の効率化

建築確認の民間開放は行政の効率化に繋がったと一般的には評価されています。そして多くの自治体では、効率化を理由に建築行政に携わる人員削減を考えています。しかし、建築行政のスキルの低下が心配されているもと、さらに人員削減を行うことが果たして行政の効率化となるのでしょうか。

行政の効率化を考える場合には、コスト効率性と政策達成効果があるとされています。民間開放によりコスト効率性は高まったかもしれませんが、その行政分野における公的課題との関係からくる政策達成効果を考えた場合、前述したように公的課題への対応能力の低下をもたらしていては、何のための効率化なのかということになってしまうからです。

● 自治体の技術者の高い専門性の維持を

1998年の法改正後、大阪府内の各特定行政庁は中間検査制度を導入し、新たな業務量を人員を増やさずに建築確認業務の民間開放という手法で対応してきた結果、完了検査率は1998年の31.4%から2004年では74.8%と急激に上昇しました。本来、建築物が完成した際には検査を受けることが法で義務付けられているものが、長年にわたり検査の受検率は全国的にも3割であったことは建築基準法がザル法と呼ばれていた由縁です。その意味では、1998年の法改正の効果は大きいといえます。そして行政とも協力して検査率の向上に貢献した指定機関を否定するものでもありません。

しかし、改正の効果で期待されている「行政は間接コントロールを中心とし、制度の実効性を確保」を果たすためには、民間に委ねた業務の事後監視の点からも自治体の技術者が高い専門性を保つことが重要となり、短期間で民間開放へと大きく振れた大阪府内の場合、述べてきたようなことが現実として進行している状況です。

現在の「小さな政府」(行革・規制緩和)の方向は、仕事が民間に流れることによって公務の遂行能力が低下し、公務の遂行と衝突する関係にあることは明らかです。

(注)中間検査制度=法改正以前は、建築物が完成した時の完了検査のみの義務付けであったが、工事途中での検査が義務付けられることにより建築物の安全性を一層確実なものとするために導入された制度。対象物件や検査回数などは特定行政庁ごとに定めることとされている。

(注)人口10万人当たり、日本5.8人、アメリカ25.7人、オーストラリア23.0人(97年ベース)と日本は諸外国に比較しても建築行政職員数が少ない。

(注)建築主事とは、建築確認を行なう権限を持つ地方公務員のこと。建築主事は一定の資格検定に合格し、その後国大臣の登録を受け、知事又は市町村長の任命を受ける事が必要。都道府県や人口25万人以上の市は必置義務がある。

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