本試算の意義と限界、活用に向けて [2005.3.26]
最後になりますが、このような試算を自治体職員の労働組合が行うことの意義について一言触れておきたいと思います。(1)自治体労働組合が試算を行う意義現在進められている「三位一体改革」は、本来的には地方分権社会の実現を目的としており、第一に地方の裁量を拘束する国庫補助負担金を廃止・縮減することによって、自治体の財政運営の自由度を高めること、第二に地方への税源移譲を行い、自治体の財政基盤を強化すること、第三に地方交付税制度によって国民の基本的人権を保障・実現する自治体政策を財政的に裏付けること、の三点の改革を同時に行うことを意味するものと言われてきました。ところが、「三位一体改革」がスタートした2004年度では、不十分な税源移譲、大幅な地方交付税の一方的削減により、予算編成すらままならない自治体が続出し、基金の取り崩しでようやく取り繕うという状態になりました。まさに国の財政削減のための三位一体改革という性格が前面にあらわれ、自治体関係者から「一体だれのための改革なのか?」という根本的な問いが投げかかけられたのです。 しかし問題は、三位一体改革が単に中央と地方の税財源の取り合いにとどまらない、住民生活や自治体労働者の労働条件に直結する問題だということです。 例えば、公立保育所運営費負担金の一般財源化が、公立保育所の一層の民営化を促進したり、保育料の値上げにつながるなど、市民生活に大きな影響を及ぼす結果になりました。また、人件費カットなどの自治体労働者の働く条件にも否定的な影響を及ぼしています。 このような状況に鑑みて、大阪自治労連では独自に三位一体改革の影響額試算を独自に行いました。自治体の財政当局は新年度の予算編成に当たって、三位一体改革の影響額を試算しているはずです。では、どうせ当局が試算しているのだから、それを待って対応すればいい、ということなのでしょうか。そうではありません。自治体職員の労働組合として独自に、このような試算を行う意義について以下のように考えています。 独自の集計により、自治体当局の予算編成の前提を問うことができる。 当局の行財政改革提案についての予測を可能にする。 一定の根拠のある対案提示を可能にする。 三位一体改革の全体像を「わがまち」に即した形に置き直すことができる。 作業を通じて、自治体労働者の政策能力を高める。 (2)試算の限界もちろん、本試算には、集められるデータの限界や確定した制度改革以外の経済・社会的変化をどう読み込むかといった問題点もあります。とりわけ、本試算を行うに当たっては、国庫補助負担金の削減額について、一つ一つ大阪府の担当課に問い合わせるなどの手間がかかりましたが、試算上把握したのは主なものにとどまってますし、また政令指定都市や中核市では独自に問い合わせる必要があるなどの困難もありました。実際、まだ入手できていないデータもわずかなからあります(高槻市の国庫補助負担金の一部)。また、地方税の伸びについても、地域による経済格差や、税目毎の伸びを勘案できていないなど、「試算の正確さ」という点からは改善の余地があります。(3)試算の活用しかし、正確さよりもある一定の前提のもとでの計算値をタイムリーに発表することが重要だと考えました。これをもとに、大いに、自治体当局や市民・住民の皆さんとの対話に活用することが、本試算の最大の目的であると考えています。ここでは、本試算の活用方法として次のようなことが考えられます。 当局との交渉 市民向けの活用(学習会・講演会、宣伝物) 組合内部での学習会などでの活用 本試算を、このような場面で大いに活用し、自治体財政の問題を自治体政治の争点としていくことが求められているのではないでしょうか。また、自治体の予算編成のあり方も含めた自治体の意思決定そのものの改革を提案し、自治体の自律プランを自治体労働組合と住民の共同作業で作っていくことを検討する時期に来ています。 そして、本試算を活用したときは、ぜひ大阪自治労連にその旨のご報告やご意見をいただきたいと思います。 |
||
|
||
【←前の章へ】 | ||
-2005.3.26- |
閲覧数:3947
試算表の見方 [2005.3.26] |
自治研・地方財政 |
自立をめざす都市自治体フォーラム -分権と協働によるまちづくりを考える-[2005.8.29] |