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第14回大阪地方自治研究集会-基調報告 [2004.12.13]

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〜第14回大阪地方自治研究集会 基調報告〜
脅かされるいのちと暮らし どないする?公務員の仕事
   いまこそ、憲法をくらしに生かす自治体を

報告 久保貴裕 (実行委員会事務局長・大阪自治労連行財政部長)
はじめに

新潟県中越地震、台風23号・・・災害の中で浮き彫りになった自治体と自治体労働者の役割り

新潟県中越地震、台風23号など災害があいつぎ、被災地では自治体職員が不眠不休で復興にあたっています。全国の地方自治体、自治体労働者も救援、支援にかけつけています。

おびただしい廃棄物を回収する清掃職員、初冬の避難所で暖かい食事を炊き出しする学校給食調理員、被災者の心のケアを行う保健師、被災者を救い出す消防士、ライフラインの復旧をはかる土木・建設職員など多くの自治体労働者が支援に入っています。支援にかけつけた自治体労働者は、初めての地域であっても、的確・機敏に仕事・作業をすすめています。

劣悪、困難な状況のもとでもこのような仕事ができるのは、自治体職員に、仕事についての高い「専門性」があるからです。住民のいのち・くらし・安全・福祉に関わる仕事について豊かな経験、知識、技術を備えた自治体労働者であるからこそ、住民への支援が最も緊急に求められている時に、機敏に行動し、適切な支援を行うことができるのです。

被災地・新潟では、11月1日から2町4村が合併して新市「魚沼市」がスタートすることになっていました。しかし震災に遭ったために合併に伴う機構改革や人事異動を延期し、旧来の町村の機能を続行させて復興にあたることになりました。「住民サービスの向上のために」と合併したものの、被災者の救援とまちの復興をはかろうとすれば、合併した新市でなく、合併前の小さな自治体のままで行うほうがよいと判断されたのです。

こんどの災害で、地方自治体のあり方、自治体労働者の役割りがあらためて浮き彫りになりました。多くの犠牲者を生み出した災害と、その復興から教訓を導き出し、これからの地方自治体づくりに生かすことが求められています。しかしいま政府・財界は、この大切な地方自治体を、どのようにしようとしているのでしょうか?



1.「戦争しない国から、戦争する国へ」「自治体が自治体でなくなる」

(1)憲法改悪と一体ですすむ地方自治の変質・再編

政府・財界は憲法を改悪して「戦争をしない国」から「戦争をする国」へ、地方自治制度を変質させ、「自治体が自治体でなくなる」事態に突き進もうとしています。そのもとで、憲法に保障された生存権、労働権、発達権、労働基本権、平和に生きる権利、自由に生きる権利、幸福を追求する権利、住民自治をはじめとした基本的人権が根底から脅かされようとしています。

小泉政権は「骨太方針」で政府機構・地方自治制度の改変をうちだし、「住民の福祉の増進をはかる」(地方自治法)と定められている地方自治を根本的に変質させようとしています。

その特徴は、第一に「小さな政府・自治体」と称して、これまで国民や住民の諸権利を保障するために実施してきた様々な福祉施策を廃止縮小させ、「自助自立」の名のもとに福祉への公的責任を放棄すること。第二に「官製市場の民間開放」として、国や自治体が行ってきた施策を、民間企業に新たな金もうけの対象にして積極的に提供していくこと。第三に「強い政府(自治体)」として、有事法制に対応した戦争遂行のための機関に変質させていくことにあります。

ブッシュ再選後のアメリカは、ファルージャ総攻撃を行うなど、軍事的侵攻をさらに拡大し、小泉内閣は自衛隊派兵の延長はかりアメリカの共犯者の道を突き進んでいます。

政府・財界は、このような自治体再編をすすめるために、自治体を企業と同一の経営体とみなすNPM(ニュー・パブリック・マネジメント)路線を取り入れ、「三位一体改革」による国から地方への財源削減、市町村合併特例法、地方独立行政法人化、指定管理者制度、国民保護法制など様々な法律、財政制度を駆使して自治体再編をはかろうとしています。


(2)全国の地方自治再編のトップランナー大阪府政
   府下自治体でも「財政危機」を理由にしたリストラが。


政府・財界の自治体再編を全国の自治体で率先して実行しようとしているが首都圏における東京都、神奈川県、横浜市などの大都市自治体、関西では財界の意向を強く受けている大阪府政です。大都市部での住民の闘いや運動が、これからの全国の自治体再編の動向を大きく左右します。

大阪府は9月にうちだした「府行財政計画」(改訂素案)で、「全国一小さな組織で、全国最高のコストパフォーマンス」を基本目標にかかげ、これまで府民の権利を守るために実施してきた福祉や教育などの施策をことごとく投げ捨て、府政を解体させる道に突き進んでいます。

府がこれからの自らの姿を「バーチャル(仮想)府政」と呼んでいるように、府政そのものが実態のないものに変えられようとしています。その先には、都道府県を解体して道州制へ移行するねらいもあります。

府民への負担のおしつけでは、府立高校授業料や府営住宅家賃の値上げ、府立高校つぶし、私学補助の削減、府立5病院の地方独立行政法人化、府立図書館の指定管理者制度を手始めに実施しようとしています。府民サービスはアウトソーシングで、民間企業の参入する市場に放り出すか、安上がりのボランティアなどにまかせようとしています。府財政を深刻にしている大阪の経済不況についても、中小企業の抜本的に支援策などはありません。

要するに府民サービスに関わる業務からは一切手を引いて、これからは「コーディネーター」役になろうとするのが府の方針です。一方で、府財政を破綻に陥れている元凶である関西空港2期工事をはじめとした大型公共事業は、どんなに財政破綻に陥っても計画どおりに推進しようとしています。府民から税金をとるだけとって大型開発につぎ込む一方、府民に対する施策は何もせず、切り捨てていくのが府の方針です。今回の「行財政計画案」で府財政の再建など、とうていできるはずはなく、ますます財政破綻に追い込むものであることは明らかです。

一方で大阪府は有事法制や周辺事態法に対応して内閣官房や自衛隊まで参加する「国民保護検討委員会」を開き、ミサイル攻撃まで想定した有事即応体制についてうちだすなど、戦争準備のための方針づくりもすすめています。自衛隊や警察官を自治体の重要な部署に配置する動きもあらわれています。

大阪市は現職の警官を秘書課に配置しています。大阪市も大型開発による第三セクターの財政破綻に対する支援は続ける一方で、財政非常事態宣言として市民の暮らし・福祉の施策を大幅にリストラしようとしています。堺市も「政令指定都市化」を至上課題に、国の施策言いなりに、保育所の民営化、職員のアルバイトへの置き換え、指定管理者制度の積極的な導入など、住民のための施策を先駆けて切り捨てようとしています。

府下市町村でも財政危機を理由に、民営化、職員削減、職員の不安定雇用への置き換えをおこない、住民の「ゆりかごから墓場まで」公的サービスへの責任放棄につながる事態が進んでいます。



2.「私、生きていたらいけないの・・・」
   市役所の窓口から出てきた、ある市民のつぶやき

 

◆市役所が住民の「いじめ」役に・・・矛盾に悩み苦しむ自治体職員も

政府・財界による自治体再編の動きの中で、住民のくらし、現場はどうなっているのでしょうか。大阪のある市役所窓口から出てきた市民が、その足で鉄道自殺をはかろうとして、危うく助けられました。その人は生活保護を受けており、市役所の窓口で人格を傷つけられるような「指導」を受け、「私、生きていたら、いけないの・・・」とつぶやいていました。住民の福祉をまもるべき地方自治体が、市民に生きる希望すら持てないように踏みにじるような事態がおこっています。

住民の生活難を反映して生活保護者が増大しています。国は生活保護への補助金を削り、自治体はその財政支出を押さえるために窓口で申請者を追い返すことまでしています。一方、生活保護を担うケースワーカーが足りず、大阪でも国の基準(一人80ケース)を上回る150ケース、200ケースを上回っている自治体も少なくありません。これでは一人一人の名前・顔を覚えていられない状態です。しかも、自治体の職場では経験の浅い職員がケースワーカーに配置をされ、相談能力も低下し、矛盾の板ばさみになって精神疾患、病気休職する職員が増大しています。

ケースワーカーを安上がりで雇うために、アルバイトの不安定雇用で正規職員と同様の責任をおしつけて働かせている自治体もあります。自治体の職場では生活保護の職場は、行きたがる人がいない「不人気な」職場にもされています。仕事を苦に自殺をするケースワーカーもいます。

住民の財産・プライバシーに深く関わる税務職場もアウトソーシングの波にさらされています。堺市では税務の仕事を「バリュアブルスタッフ」という半年契約のアルバイト職員にさせようとしました。組合が問題をとりあげて追及し税務職場への導入をやめさせましたが、堺市は正規職員を短期雇用のアルバイトに切り替えていく方針は推進する立場です。

茨木市でも税務職員を民間からの派遣労働でまかなおうとする動きが出ています。さらに税金や国保料の取り立てを「強化」するために、職員に徴収目標を立てさせてノルマを強要し、住民への過度な取り立てを促進しようとしています。


◆住民の生活悪化は、大阪の地域経済の悪化もすすめる

生活保護申請者、国保加入者が増大する最大の要因は、大阪の経済不況が深刻で、リストラ、企業倒産による失業者、生活困窮者が増えていることにあります。大企業を中心とした労働者に対するリストラ、中小企業の倒産、青年・高校生の就職難、フリーターの増大は、地域経済・地域社会、コミュニティーの崩壊につながり、中小企業の技術の継承者、地域社会の将来の担い手、後継者がいなくなる事態まで憂慮されています。自治体が福祉を削り、まともな中小企業・雇用対策をとらない状況が続けば、住民のくらしは悪化し、消費購買力も低下させて、大阪の地域経済はますます悪化します。

大阪の近郊農業も、減反の推進、離農者の促進など国の政策よって次々と衰退させられています。現在、大阪における府民の食糧自給率はわずか2%です。和歌山県では関空の土取場の跡地に「構造改革特区」でトマト栽培を民間大手企業の参入で実施し、地元のトマト農家の経営を圧迫するなど、自治体が率先して地場の農業をつぶそうとしています。この被害は近畿一円の近郊農業にまで及んでいます。


◆おびやかされる安全・・・しわ寄せは弱者、子どもたちに

児童虐待が行われている一方、これに対応する相談所の数、職員ともに決定的に不足しています。子どもの健全な発達を保障する地域社会・コミュニティが崩壊の危険にさらされています。「三位一体改革」などによる保育所運営費の一般財源化で、保育に対する公的責任が放棄される事態がおこっています。公立保育所も民営化の動きが進んでいます。株式会社が運営に参入して、経験の浅い低賃金の保育士がマニュアルで保育する事態もあらわれています。学童保育について、安上がりの委託で委託先が経営破綻する例も全国であらわれています。育児、子育ての相談、支えあえるネットワークが必要です。

学校給食も民間委託によって献立の水準が低下するとともに安全確保に不安が広がっています。規制緩和の中で、外国の輸入食品が大量に国内・地域に流れ、小中学校やお年よりの給食の食材にまでとりいれられる事態が進んでいます。BSE、SARS、鳥インフルエンザ、雪印にみられる企業の安全軽視など、市民の安全が脅かされているにも関わらず、住民の安全を守る最前線の保健所で統廃合、人減らしが進んでいます。雪印の食中毒事件の前には、労働者の解雇、パートいじめ、能力主義賃金の導入などのリストラがありました。


◆男女平等、教育基本法に対するバックラッシュの動きも

大阪における男女平等、政治や行政をはじめとした政策決定の場で、女性の参画は非常に遅れている実態にあります。アメリカ中心の「グローバル化」が進められる中、アメリカを中心にしたバックラッシュも強まっています。大阪でもこの動きは強まっています。その動きは憲法、教育基本法まで及んでいます。「戦争する国づくり」をすすめるために、また財界の利潤をあげるために、女性を安上がりの労働力として活用しようとする動きが強まっています。

自治体も保育や福祉、医療等の切り捨てを一気に進めようとしていますが、このことは女性の社会参画をさらに困難にするものであり、時代の流れに逆行するものとして許すことはできません。


◆公務員の仕事をめぐって−住民のための仕事放棄を迫られる。
  奪われる「誇り」と「働きがい」


自治体再編の厳しい攻撃の前に、「住民のための仕事をしている」と確信をもって言えない公務員も少なくありません。公務員の仕事を否定し、「すべて民間で・・・」という民営化キャンペーンの前で仕事に対する自信を喪失する傾向もあります。悪政と住民のはざまにたって悩み、精神疾患、健康破壊、ひどい場合は「うつ病」、自殺する事態まで生まれています。また、住民に奉仕する立場から離れ、国からの「通知」や「指示内容」で仕事を判断したり、民間企業の発想で「効率性」によって仕事を判断する傾向も生まれています。これを促進させるための「勤務評定」や「行政評価制度」までつくられようとしています。

さに政府は、公務員を公務員でなくする「公務員制度改革」をねらい国会で法案を通そうとしています。公務員制度改革案では、公務員の仕事を企画部門と実施部門の2つに仕事を分割しようとしています。企画部門は自治体の方針を決める「頭脳」とされますが、実際の方針は民間コンサルに委託したり、民間からの「有識者」の参加する「審議会」「諮問会議」によって事実上、財界や民間の言うままに自治体の方針を決定しようとしています。実施部門は市場原理に委ね、自治体労働者の8−9割を不安定雇用に置き換え、これも直営でなく民間へ放り出そうとしています。

自治体労働者には「成果主義賃金」をもちこみ、上司が一人一人の労働者に勝手に「成績」をつけて賃金・昇任・昇格を決めようとしています。総人件費を削り、「成績」の低いと評価された労働者の賃金を削り、その削った分を「成績」がいいと評価された労働者にまわすしくみです。評価の基準は「企画部門」で決められますが、住民いじめの仕事を推進することが「いい評価」を得る基準となることはまちがいありません。すでに東京都の税務職場では、毎年職員全員が滞納整理の数値目標を書かされ、目標以上に達成した職員が表彰されて昇任・昇格するようになっています。滞納整理の成績がわるい職員は給与や一時金でペナルテイを課せられるようになっています。自治体労働者は賃金や雇用で脅しをかけられ、サバイバル競争を強いられることになります。

公務員制度改革では「信賞必罰」という言葉がキーワードとしてあらわれました。これは戦前に使われていた軍隊用語が復活してきたのです。すなわち、上司の言うとおりに働く者には、わずかばかりの「ほうび」を与えるが、上司の言うとおりに働かない者は、徹底した制裁で締め上げるものです。「信賞必罰」の原理が公務員の仕事にもちこまれれば、その被害は住民に及びます。


◆住民は「主権者」でなく「顧客」に。 お金持ちの人だけ「優遇」される社会に

小泉の自治体構造改革では、住民はもはや「主権者」でなく「顧客」に。「当事者」でなく「消費者」になります。公共サービスが市場原理に委ねられれば、住民に等しく保障されるべき福祉・公共サービスが保障されず、所得や地域による格差・差別が出てきます。

アウトソーシングで自治体は負担と責任を逃れます。アウトソーシングを請けた民間企業も、収益が上がらなければ、すぐに撤退します。大型開発の第三セクターは破綻しても自治体が税金で面倒をみますが、住民サービスはいったんアウトソージングされれば、自治体も企業も責任をもちません。アウトソーシングによるしわよせは、結局住民におそいかかります。けっして住民にとって安上がりでも、便利でもありません。



3. 合併を止めた! リストラに「待った」をかけた!
   大阪の住民には底力がある。 



しかし、自治体再編の攻撃も簡単に推し進められるものではありません。攻撃は必ず住民との矛盾を引き起こします。この矛盾が激化し、政府に対して、かつてない規模での反撃が始まっています。全国でも国の「三位一体改革」に対して、地方6団体が初めて共同して行動しています。民間保育所の運営費の一般財源化に対する全国私立保育園経営者の行動も注目されます。

大阪は全国でも激烈な自治体リストラがおしつけられていますが、これに対する住民パワーは健在で、全国にも誇るべきものがあります。市町村合併では、高石市、泉南各自治体、守口・門真で住民投票による「合併ノー」の意思を表明しました。富田林市と河南町、太子町、千早赤阪村の合併もおしつけられようとしましたが、地元住民と大阪自治労連の宣伝、学習、シンポ、申し入れなどのとりくみで、おしかえしました。島本では町民の意思をうけて町長が「合併しない」ことを表明。池田市、豊能町も「合併反対」の世論が流れつくっています。全国でも市町村合併が進む一方で、合併協議会の解散など「破談」もすすんでいます。全国で合併の嵐が吹き荒れていますが、大阪では「まちの姿は住民自身が決める」という地方自治の大原則にたって、住民世論の力で合併のおしつけをやめさせています。

自治体の業務民間に丸投げするリストラに対しても住民の運動でストップをかけるとりくみが進んでいます。堺市は、2005年4月から市立図書館の一部を指定管理者制度にしようとしましたが、利用者・図書館職員でつくる「堺市図書館を考える会」を中心に議論・反対の声があがりました。短期間のうちに11.000人を超える反対署名が市長と議会に寄せられ、堺市は来年度からの指定管理者のゴリ押しを断念せざるをえなくなりました。民営化された保育所でも、高石、大東、枚方などで民営化の違法性を訴えて裁判闘争が果敢に闘われています。

委託事業の公共性・安全性を守る闘いでは、吹田市清掃工場の委託業務が安上がりの競争入札により、熟練労働者の雇用が脅かされそうになりました。しかし、清掃工場の安全操業の確保と、熟練労働者の雇用を守れと運動が広がり、入札で業者は入れ替わりましたが、労働者全員の雇用を継続させることができました。大阪自治労連が住民とともに委託業務に対する自治体の公的責任を追及し、委託労働者の労働組合への組織化をすすめてきたことが大きな力を発揮しています。

食の安全をまもり、大阪の近郊農業の再生をはかるとりくみも進んでいます。農民組合や食・農守る府民会議のとりくみで、府下自治体に「地域水田農業ビジョン」計画を策定させています。長年政府がおしつけてきた減反、農作物輸入による農業つぶしの政策を見直させ、水田の保全を農業・環境を守る立場で自治体の事業に位置付けさせる新しい流れがつくりだされようとしています。小中学校の「食教育」と地場産業を結びつけ、給食の食材に地元の農産物を取り入れる自治体も広がりつつあります。

男女平等に向けて実効ある共同参画条例をつくるための地域の共同も広がり、激しいバックラッシュ攻撃とを許さない闘いをすすめています。「次世代育成」も国の政策の問題を明らかにし、住民が男女ともに安心して子育てができる地域をつくりあげるとりくみも各地で広がっています。

自治体の財政再建をめぐっては、「破綻のツケを市民におしつけるな!」と市の財政再建にモノ申す泉佐野市民大集会が開催されました。府立高校つぶしに立ち上がる高校生、「戦争アカン」の人文字で世界に発信した高校生・青年は大人たちも勇気付けています。これからの地域経済、地域社会の担い手をつくり、育てる観点から、高校生の社会参加と就職問題を考え、解決に向けて行動するとりくみが北河内地域を中心に広がっています。

環境を守る運動で、自治体行政にも変化をつくりだしています。大阪府がエネルギー政策の転換を求める市民の運動におされて「市民共同発電所」をつくるための事業に着手。大阪自治研集会実行委員会に参加している「おおさか市民ネットワーク」にも相談をもちかけてきています。

大阪の各地で、各分野で示されている住民と自治体労働者の共同した運動は、政府・財界の自治体再編に対抗して、本来の「自治体らしい自治体」を21世紀につくりだす、確かな力となるものです。



4.憲法を高くかかげ、
  地域のくらし・自治体に生かす運動を共同ですすめよう



憲法と地方自治をめぐって、2つの道が対峙しているもと、平和憲法を生かし、住民のいのちと暮らしをまもる地方自治体本来の役割を発揮させるために、住民・自治体労働者が力をあわせたとりくみを前進させていくことが求められています。


1.地方自治体が果たすべき仕事とは
  −憲法が定める諸権利を身近な生活に保障し、発展させること。


(1)憲法を積極的に住民のくらしに生かす立場で

「自治体らしい仕事」とは、「住民の福祉の増進を図る」(地方自治法)という本来の役割を発揮すること、すなわち憲法が定める住民の生存権、労働権、発達権、平和に生きる権利、自由に生きる権利、幸福を追求する権利、住民自治の権利を具体的な施策を通じて保障することにあります。

戦後、平和憲法と住民本位の自治体行政を求める住民運動、自治体労働組合運動で、革新自治体をはじめ、国のナショナルミニマムを引き上げる様々な施策を実現させてきました。その内容は、住民の生命、安全の保障、生涯にわたる発達保障、男女平等、生活基盤の整備、働く場の保障と地域経済、産業の振興、地域・自治体の「自給率」を高める食・農・産業・エネルギー政策、地域の自然環境の保全、地域の歴史、文化の継承、発展など多岐にわたります。

自治体労働組合も、「役人から労働者へ」「労働者から自治体労働者へ」という発展を遂げ、自治体労働者は「住民への奉仕者」という職務を担う労働者であるという「民主的自治体労働者論」を確立し、住民要求と自治体労働者の要求を統一させて自治体施策に生かしていく実践もされてきました。

住民運動と自治体労働組合運動がこれまで築いてきた到達点と財産に確信をもち、これを今日の情勢の中で生かし、さらに発展・具体化をはかる立場で望んでいく構えが必要です。平和憲法と地方自治が変質させられようとしているときだからこそ、「平和憲法」と「地方自治」を住民の権利保障の土台にすえるためのとりくみが求められています。


(2)施策を守るだけでなく、新しい権利保障、住民のニーズにみあって発展させる

私たちの運動は、現行の自治体施策をそのまま守るのではなく、住民の権利の発展に即して、新しいニーズにこたえる行政が進められるように発展させることが求められます。そのためにはすすんで今の自治体行財政のあり方を見直し、必要な改革を積極的に提案していくことが必要です。

構造改革やリストラを推進する側は、コスト削減だけでなく「これこそが住民ニーズにこたえられる」と理由をつけています。保育所の民営化も「子育て支援策の充実のため」と言ってきますし、公立図書館の指定管理者制度化も「開館時間の延長」など、住民ニーズにこたえるものであるかのように打ち出しています。このような動きに対して、単に「現行の制度を守れ」というだけでは、攻撃に対抗できませんし、住民のための自治体施策の実現にもなりません。直営の施設もふくめ現行の施策が住民の要求やニーズにあっていないものもたくさんあります。

現行の施策に対して住民がもっている不満や要求を、私たちの側から積極的に取り上げ改善させていくことがもとめられます。子育て支援、図書館など施設の開館時間の延長など住民から新しく生まれているニーズに対しても、自治体が公的責任をもってこそ真に実現できる施策であることを明らかにし、住民自身の手で改革を行うことが必要です。


(3)「主権者」「当事者」である住民が、あらゆる施策に参画する。

住民は自治体行政の「主権者」であり、「当事者」です。これにふさわしく、住民に対する情報の公開、情報の共有、決定に対する住民の主催的な参画が保障されなければなりません。「自分たちのまちの進路は自分たちで決める」「大事なことは住民みんなで決める」という立場から、市町村合併問題を契機に各地で広がっている「住民投票」を、今後の自治体施策の中に生かしていくことも検討されてよいでしょう。


2.自治体労働者は、住民の中へ一歩外へふみだす行動を

(1)「住民と自分のためにいい仕事を」−自治体労働組合として職場を改善する実践を

公務員が住民に目を向け、住民の立場にたった仕事を行える職場・自治体を作り上げていくためには、組織された自治体労働組合の役割りは決定的に重要です。いま厳しい公務員攻撃の前に、大阪の自治体労働者は、住民の前に出るのをためらい、半歩ひいて職場にひきこもっている状況もあります。

しかし、いま住民と自治体労働者にかけられている攻撃にたちむかおうとすれば、自治体労働者・自治体労働組合が積極的に外へ打って出ることが求められています。

大阪でも、自治体労働者が自らの仕事と住民の要求を結び付け、積極的に外へ打ってでている実践例が生まれています。市町村合併で住民投票を実施し、圧倒的多数の市民が合併ノーという世論をつくりあげた守口、門真の運動では、守口市職労、門真市職労が地域で中心的な役割を果たして奮闘しました。泉南地域の住民投票でも府職労が地域で奮闘しました。富田林市周辺の合併問題でも、大阪自治労連の組合がいち早く住民宣伝ビラを配布し、地域の学習会やシンポジウムのとりくみをすすめてきました。市町村合併が、市民のくらしや生活にどう影響するのかを、自治体行政の専門家として財政、住民サービスなどを住民の目線で明らかにし、住民が確かな選択のできる判断材料を積極的に提起するとともに、住民投票でも待機の運動の事務局的役割を果たしてきました。

学校給食でも、岸和田や吹田、守口などで給食調理員が市民とともに「給食まつり」を開催して、直営で行っている給食の試食会や展示会を行うなど、積極的に市民に打って出て学校給食の大切さをアピールしています。この企画には、教育委員会も後援するほどの影響力を示しています。

地域の雇用をまもるとりくみでは、北河内で自治労連の組合が教職員組合やPTA、地域労連といっしょになって高校生の就職問題にとりくみ、企業ヒアリング、高校生・就職担当者からのアンケートなどを実施して、自治体の雇用・商工担当者と解決に向けて懇談をすすめ、シンポジウムを成功させるなど、地域経済活性化、地域社会づくりもすすめています。

自治体の仕事を民間に丸投げする指定管理者制度に対するとりくみでは、堺市の図書館の職員が利用者とともに共同で懇談・学習会、シンポジウムを開催し、指定管理者制度の問題を利用者の立場から明らかにしてきました。そして利用者といっしょに堺市に対して図書館の充実を求める署名運動をすすめました。短期間のうちに11.000人余の署名を集め、堺市は来年度から実施しようとしていた指定管理種制度の導入を「延期」せざるをえなくなりました。

水と環境を守る取り組みもすすめられています。貝塚では、水道労働組合が中心になって地域の「自己水」を守る集いを開催。水道水やペットボトルなどの水を使ったご飯の「炊き比べ」をして市民に水と生活の関わりをアピールするなど、水と環境を市民とともに考えるとりくみをすすめています。

生活保護の職場でも、厚生労働省の言いなりでなく、生活保護者の立場にたって仕事のあり方を見つめなおす実践が始まっています。「生活保護を通じて障害者がパソコンの職業訓練を受け、初めて就職に結びつき元気な笑顔を見せてくれた。夢とロマンを失わず仕事と職場を大切にしたい」と感じられるような改善をはかっている職場も生まれています。

自治体労働組合として、住民の立場ですすんで仕事のあり方を見直し、住民に役立つ仕事ができることに「働きがい」や「仕事の喜び」のもてる職場をつくっていくことが必要です。衛都連は、「住民と自分のためにいい仕事がしたい」をスローガンに、これまで職場・職種別集会を開催し、自分たちの仕事を住民の立場で見つめ、「働きがい」ある職場を探る試みが積極的に行われています。

自治体労働組合は、自治体労働者が住民本位の立場にたって仕事ができる雇用条件を確保すること、住民とともに、住民のための自治体行政をつくりあげていく役割りがあり、いまこそ、住民の中へ打って出て、積極的にその役割を果たしていくことが求められています。

(2)公務員の働き方が、住民の生活と権利を決定づける
  −戦争・財界への奉仕者でなく「全体の奉仕者」(憲法15条)としての公務員に。

公務員の仕事は、そのまま住民の生活・権利のあり方に直結します。自治体に働く公務員の仕事とは、地方自治体が本来の役割を果たせるように、「全体の奉仕者」(憲法15条)として日々の仕事を通じて憲法をくらしに生かすことにあります。公務員には憲法を尊重し、擁護する義務があります。この仕事は地方公務員法の定める正規の公務員だけに止まりません。非正規の職員、委託・関連労働者など雇用形態の違いはあっても、住民サービスの担い手としての立場は同じです。これらの自治体労働者・自治体関連労働者は、営利のためでなく、住民という生きた人間を対象に、人間の権利をあらゆる施策を通じて保障する「コミュニケージョン労働」という性格をもっています。

自治体労働者が、その役割にふさわしい仕事を行うためには、
(1)行政の仕事を通達や国のマニュアル、効率化優先で見るのでなく、住民と向き合い、住民の状態を住民の目線でつかむこと。
(2)行政の専門家として住民の権利をどう保障していくのかの立場から仕事のあり方を考え、住民の声を行政に生かすように努めること。
(3)行政の仕事を通じて得る住民に必要な情報、問題を積極的に住民に発信し、情報や問題点、課題を住民と共有する姿勢をもつこと。
(4)行政の仕事について高い「専門性」と「熟練性」をもち、継続して職務を担える雇用条件を保障することが必要です。

3.たたかいの場は地域−住民誰もが安心して生き、働きつづけられる自治体へ力をあわせよう

(1)住民の手で「まちづくり」の目標を確立し、実現に向けて行動しよう。

大阪における市町村合併は、堺市と美原町を除き、「合併せず、自立再生をめざす」選択をしました。しかし、自立再生するためには財政問題や地域経済問題など様々な課題や困難を抱えています。この課題や困難を住民の手でどう解決し、新しいまちづくりをはかっていくのかが問われています。私たちのとりくみは、攻撃に対する単純な反対運動ではありません。

これからどんな大阪のまちをつくっていくのか。どんな地域をつくっていくのか。「こんな地域をつくっていきたい」というまちづくりの方向について、住民といっしょに要求・政策をねりあげていく必要があります。

徹底して住民と職員参加で町財政の再建計画をたてた新潟県の津南町は、役場の職員全員が参加してのべ190回の議論を重ねるとともに、住民からも公募して検討会をつくり、向こう20年間を見越した町財政再建の計画をつくりあげました。

津南町の役場の玄関には「農をもって立町の基(もと)とする」と書いた石碑が置かれているそうです。財政再建も、ただ「削る」のではなく、農業を基本にしたまちづくりの理念を中心にすえ、「弱者優先、貧しい人を優先する」という考えで町の施策の優先順位を決めているそうです。自治体財政再建のとりくみも、
<1>住民の手でまちづくりの目標・理念をしっかりもつこと、
<2>まちと町財政についての現状をつかみ、中長期的な展望をもった緻密な財政計画をたてること、
<3>自治体職員の全員参加、住民参加を徹底して貫いてこそ、住民本位のまちづくり、財政再建への道が開けます。
平和憲法と地方自治が保障する住民の諸権利を、自分たちのまちでどう具体的に生かしていくのか、住民自身の手でビジョン、目標を設定し、実現に向けて行動しましょう。

(2)職場・地域での自治研活動を、運動の大事な一環に位置付けて。

今年の大阪地方自治研究集会、国のあり方、自治体のあり方が正面から問われる中での集会。それぞれの分科会でもテーマ別に議論がされ、現状報告、打開の方向についての真剣な議論がかわされました。また、今回の自治研集会で、大阪の自治体が抱えるすべての課題が議論されているわけではありません。分科会でも、雇用・地域経済、税制問題、財政再建、エネルギー政策など重要な課題でありながら、設定ができていない課題があります。これらの課題は、今後の自治体再建のとりくみや次年度の自治研集会に取り入れ、生かしていきましょう。

この大阪で、どんな地域、自治体をつくりあげていくのか。どのように地域経済の再生と財政再建をはかり、福祉、環境まもる「まちづくり」をすすめていくのかが問われています。

これまでの分科会や、各地の集会、討論会では、これからの大阪について、
<1>平和憲法をもとにアジアとも友好・交流を深める、
<2>地産・地消をすすめ、地域における食糧の「自給率」を高める、
<3>高い技術をもち、世界に誇る中小企業集積地である大阪の特性を生かし、機動性、即断性をもった中小企業の受注体制をつくる、
<4>地域の人、モノ、資源、文化を生かしたまちづくりと新しい地域産業、エネルギー政策を振興する
など、さまざまなビジョンが語られています。これらの研究、討論を住民、自治体労働者、行政関係者、専門家が共同して推し進め、実現に向けて実践をはかりましょう。

自治研集会は、その重要な一環のとりくみとして位置づけられます。この大阪地方自治研究集会だけでなく、この間、行政区単位でも自治研集会が新しく取り組み始めています。

大阪府職労自治研集会、大阪市自治研集会、吹田市政研究集会、守口、東大阪での自治研集会など、この間、行政区単位での自治研集会がとりくまれています。住民と自治体労働者、自治体問題の研究者、専門家が共同して、「こんな地域、まちをつくりたい」という政策と課題を明らかにし、その実現に向けて実践するとりくみを、大阪各地へきめ細かく広げていきましょう。
以上

-2004.12.13-


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